541: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 20:51:34.28 ID:oL93h30zO
今後の計画について、ぶつぶつと唱える永井の考えをアナスタシアはしっかり聞いていた。永井が倫理や道徳を気にかけないことなどとっくにわかっていたが、それでも目の前でこう淡々と盗みを働こうとするのを見ると、戸惑いと緊迫を隠せない。特にアナスタシアをどぎまぎさせたのは、強奪という言葉だった。他者への強制力と攻撃性を内包したこの言葉に、アナスタシアは車の持ち主の後頭部を殴りつける永井の姿を想像した。
ーーでも、ケイは強奪を目撃されるようなヘマはしないはず。用心深いはずだから……でも、不可抗の事態はいつだって起こりうる。もし、目撃者があらわれたら? 口封じしようとしたら……? コウならとめてくれる……とめられなかったら……? わたしがとめる……? とめられるの……?ーー
アナスタシアがわるい方向への考えに深くはまりこんでいると、中野が突然二人から離れた。
中野「ちょっと待ってろ」
永井「は!? おい!」
永井もアナスタシアもこれには面を食らった。引戸がガラガラと音をたて、中野は常連客の態度でのれんをくぐり抜けると慣れたようすで居酒屋に入っていった。
永井は悪態をつくかわりに頭をふるとすぐさま居酒屋から離れた。隣にある雑居ビルの駐車場を通り過ぎ、ビル裏の錆び付いた非常階段を見上げどの階にも明かりが灯ってないことを確認すると、ぼやけた電灯に照らされた踊り場に腰かけた。
968Res/1014.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20