416: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:01:29.44 ID:4fkctst+O
永井「一九九四年、ルワンダで八十万人が虐殺されたとき、国際社会は虐殺が進行中と知っていて何もしなかった。虐殺は以前から計画されたもので、それが始まる三ヶ月前にPKO司令官が阻止するために軍事介入を提案したが国連は却下した。資源の乏しいアフリカの小国家の紛争に干渉しても何も得がないからだ」
永井「日本も例外じゃない。当時の国連難民高等弁務官は日本人だった。だがその弁務官が政府に対してできたことといえば、自衛隊を当時のザイールにあった難民キャンプへ派遣するよう要請することぐらいだった。そのキャンプには虐殺の加害者もいたが、加害者と被害者を区別ができないまま支援活動を続けるしかなかった」
中野「なにが言いたいんだよ」
永井「起こりうる危機的な事態を阻止することも、起こってしまった悲劇的な事態への充分な対処もほとんど不可能だってことだよ。僕らがいるのは、事後的で、消極的な世の中ってことだ」
陽の光で熱くなっているところに触れないよう気をつけながら永井は扉に手をかけた。永井が扉を閉じようとするのを見てとった中野はとにかくまた声をあげて、外へ出すように訴えようとした。中野の口から大声が飛び出るまえに、永井がまた顔を下に向けた。
息継ぎをするかのように蝉の鳴き声が落ち着き、微風が涼を運んできた。
永井はまるで折衷案を提案するかのように、中野に言った。
永井「佐藤を止めたいなら、このまま事を起こさせろよ。被害が大きければ大きいほど、政府も本腰を入れて対応するはずだ」
それを聞いた瞬間、中野の頭から考えが吹き飛んだ。 激昂した声が空にまで届くような勢いで飛んできた。
中野「ふざけんな! クズが」
永井「わめいてろ、バカが」
不毛さを感じながら、永井は冷たく言い返した。永井はコンテナの扉を閉めた。
熱気のこもるコンテナの壁を中野は苛立ちながら何度も何度も強く蹴りつけた。分厚い金属の壁は打ち付けられた力をすべて受け止め、外の世界をいままでと同じ、何も変わらないままにしていた。風鈴を揺らす程度のそよ風がゆるやかに抜け、木々の陰にいる蝉たちが眩しい光から隠れながら、ふたたび鳴き始めた。
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