411: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 19:46:37.69 ID:Tw0BKg/zO
−−水曜日 午前九時五十八分。
水曜日。決行の日。田中は椅子に浅く腰掛け、型落ちした薄型テレビの黒い画面を見つめていた。
田中は一昨日もこうしてここに座り、いま自分の顔の輪郭が崩れたようにぼんやりと浮かんでいるこのテレビで厚生労働省の会見の様子を見ていた。予想していた通り、奴らは嘘と誤魔化しと言い逃ればかりを口にした。それはあらかじめわかっていたことだった。この十年で味わった苦痛はいまでも鮮明に覚えていて、眼を閉じればすべてが容易く思い出された。口の中に逆流してくる自分の血の味や膨らんだ鼻の穴から抜けていく血の臭いさえも。
田中は射抜くような視線をテレビの画面に向けた。厚労省の広報官は見も知らぬ男だったが、でたらめを口にしているという理由だけで殺せそうな気がしてきた。だが、実際にこの広報官が眼の前にいて、自分の手に拳銃が握られていたとしても、田中はその男の口を撃つことはなかっただろう。広報官のことなどどうでもよかった。田中にはもっと他にやるべきことがあった。
準備を終えた田中は会見を見ていたときと同じ姿勢で、液晶画面に写る自分の顔を見つめていた。うっすらと滲んだ肌色にまとわりつく深く沈んだ黒色を見ていると、憎しみが呼び起こされ、心が奮い立った。
時計の針が十時ぴったりを指した。田中はキャップ帽を目深かにかぶり、椅子から立ち上がった。
部屋から出て準備を終えた佐藤らと合流すると、田中は緊張で四五口径のコルトを握る手の強張りを解こうと頭の中で計画と役割を反芻し、やるべきことを心に刻みながらアジトを後にした。
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