315: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:35:41.96 ID:8mPTevMeO
アナスタシアは暑気にあてられ眼を覚ました。寝起きに一呼吸すると、蒸し暑い空気が鼻から肺に吸い込まれる。タオルで顔を拭き、もう一度深呼吸してから周りを見渡す。後ろに広がる森は深い影を作っていて、奥に行けば行くほど樹間は狭くなり影の濃さが増して不気味な感じがするが、その分涼しそうでもある。視線を眼の前に戻すと、太陽の照り返しで緑色に輝く草の葉がそよ風に揺れている。さらに視線を上げると、地面は途中で途切れ、そこから崖になっていて、十二メートル程下方から川の流れる音が上ってきている。崖の向こう側の景色は、いまアナスタシアがいる場所を鏡で写したみたいにそっくりで、最盛期の蝉の声が前後の森からアナスタシアに降り注ぐ。川がせせらぐ音と蝉の声に混じって、ピーヒョロロロという鳶の鳴き声が聞こえてくる。アナスタシアは鳴き声に顔を上げてみるが、頭上にある小楢の木の枝は存分に葉を繁らせ、空を飛行する鳥の姿は見えなかった。暑さに参ってしまいそうな気がするので、木の陰から出て行くのは躊躇われた。後ろ髪を結んで露出させたうなじにタオルを当て汗を拭くと、タオルがじっとりと汗を含んだ。
アナスタシアがスマートフォンを取り出して時間を確認すると、時刻は午後三時を目前にしていて、約束した時間から二時間以上過ぎていた。永井圭はまだ現れない。
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