新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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17: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/01/03(火) 00:23:17.41 ID:5kzXp0UHO

圭は九歳のとき、医者になると宣言した。当時六歳だった美波と圭の妹慧理子は、命に別状はないものの、治療法の無いめずらしい病気に罹っていて、検査、入院、退院を繰り返していた。慧理子はいまでもそのサイクルのなかで生活している。病院の白いシーツがかかったベッドの上で、入院生活用の使い古しが現れてるTシャツを着た妹が、うれしそうに自分の歌を聴いている姿を見ると、美波はよろこびのあとにかなしさを味わう。ステージから見る光景を知っているだけに、この病室のなかで反響するだけで、妹を外に連れ出す力のない自分の歌にかなしさを覚え、それをどうしよもない自分の無力さをかなしむ。

だから、美波は弟に期待していた。

圭の宣言を義母からの手紙で知らされたとき、弟の優秀さを当然ながら知っていた美波は、圭が父親とおなじ道に歩むのは自然なことだし、父親の事件に打撃を受けたろうに(いや、受けたからこそ)、父親が中断せざるをえなかった役目をーー当然ながら、父親も慧理子の病気の治療法を探していたーー受け継ぐ意志を圭が示したことに、誇らしさと安心した気持ちをもった。

病気それ自体が患者に引き起こす身体の苦痛、病気を取り除けないことに対する患者の家族の心の苦痛。美波の父親は、このふたつの苦痛を癒す優れた治し手だった。圭もまた、そのような人物になれる、と美波は思っていた。




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