志希「それじゃあ、アタシがギフテッドじゃなくなった話でもしよっか」
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98:名無しNIPPER[saga]
2017/03/06(月) 17:17:47.21 ID:QqrE/sCZ0

暖房が消えてしまった車のなかは、凍えてしまうほどに寒かった。アタシは白い息を吐いて、それから、朱色のマフラーに顔を埋めた。

「悪かった、こんなことになって」
ハンドルを手放して、体を椅子に預けたプロデューサーが、ふいにそんなことを言ったものだから、アタシはおもわず彼の方を見た。

「いいよ、そんなの」とアタシが言うと、「そうか」と彼はそれっきり黙ってしまった。

おそろしいくらいに、時間がゆっくりと流れている気がした。アタシは、寒さであたまがどうかしてしまうんじゃないかと思うほどに、身を震わせていた。

人って生き物は不思議なもので、そういう状況に陥ると、その場にいる誰かに無性に話しかけたくなるらしい。現に、アタシは無意識のうちに「あのさ」と口を開いていたのだから。

「……この前渡された台本のストーリー、どう思う?」

どうしてこんなことを、いま、こんな場所で聞いてしまったのか。そんな理由を考える熱さえも、すでにアタシからは奪われていた。とにかく、どんな些細なことだって、なんだっていいから、誰かと話していたかった。擦り切れてしまった心が、そう訴えかけていた。

「そうだな」と彼は呟いた。「どうして、女の子は置手紙を残して去っていったんだろうな」




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