志希「それじゃあ、アタシがギフテッドじゃなくなった話でもしよっか」
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53:名無しNIPPER[saga]
2016/11/28(月) 14:39:24.70 ID:4QC7f0vB0

『少女には才能があった。だから、物心がついたころには、勉強だって、スポーツだって、じぶんが興味を示したことは何だってできた。

ただ、まわりからその心を理解されないことに、もがき苦しんでいた。少女には分からなかった。みんなよりも先へ先へと前に進むたびに、みんなから取り残されていく不安感が、どうして積もっていくのかが、分からなかった。

日を重ねるごとに「死んでしまいたい」という感情が増していった。生きることをやめてしまえば、この苦悩から解放されるんじゃないかと考えるようになった。

しかし、ある日、知り合いだった男からひとつのアドバイスを受ける。


「そんなに今の自分が嫌だと言うのなら、いっそ、普通の人間を装えばいいじゃないか」


少女は、男の言葉を聞いた次の日から“普通の人間”を演じるようになった。わざと努力するフリをした。わざと仕事で失敗をした。今までの生き方をすべて捨てて、少女は生涯を終えようと考えた。

もちろん、自分以外の誰かから怒られることも増えた。そのたびに「そんなことは言われなくても分かっています」なんてことは口に出さず、きちんと「すいませんでした」と頭を下げた。

普通の人間になって、三年の月日が経ったころ。少女はボーイフレンドと無事に結婚し、ひとつの家庭を築いた。男は、非の打ちどころのない青年だった。まわりの誰もが、少女のことを「幸せそうだ」と言った。

しかし、それから一年が過ぎて。少女は突如として姿を消した。机の上に「ごめんなさい」という書置きだけを残し、何も言わずどこかへと去っていったのだ。

少女がどこへ行ったのか、どうして消えてしまったのか、取り残された男には知ることさえできなかった』




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