季節走り 心はいつまでも (モバマス)(輿水幸子)
1- 20
56: ◆ta6fr8WDAM[sage saga]
2017/10/05(木) 01:05:58.35 ID:Ebh9m4nt0
保守をありがとうございます
また少しだけつづきです

 何か特別なものでも用意しようかと思ったのだが、結局はやめた。今日はいつも通りで行くことにする。
 いつも買っている、お土産用の生菓子を用意した。うちのプロデュースしているアイドルとのコラボ商品だ。宣伝みたいだが、味はいいので喜ばれる。
 昔、幸子に持たせた時も好評だったはずだ。確か。たぶん。

「…………」

 助手席に置いた紙袋を、横目で見る。
 くそ、特別なものを用意したほうがよかった気がしてきた。幸子のご両親にお会いするというのに、俺が渡すのがこんなものでいいのか?
 いや、しかしだな。
 まだ、特別な関係というわけでもないのに、妙に気合を入れたものを用意してしまうのは、なんかみっともない……。
 が、だがな。
 そもそも、こうして昔のプロデューサーである俺が、元アイドルのご両親とお会いする、ということに特別な意味がないか? 無いわけがないんじゃないか?

「…………」

 俺は幸子の家へと車を走らせながら、こんな自問自答をずっと繰り返していた。ひょっとすると、危険運転になっていたかもしれない。とてもそんなことを意識する余裕はないが。
 ……幸いなことに、幸子への家へと続くこの道路は、俺にとっては慣れた道だ。何度も俺は彼女を家まで送った。たまに、ご両親と顔も合わせている。目をつぶっていても辿り着ける……というのは大げさだが。少なくとも、ぼんやり運転でも迷うことはなかった。

「…………あ」

 やばい、もうそろそろ着く。
 どうしよう。何も考えてなかった。
 いや、考えるって何をだよ。いつも通りで行くんじゃなかったのか。
 今更逃げるわけにもいかない。もう覚悟を決めて……。
 そうだ、この駐車場に入って……車を留めて、降りて……。

「………………」

 愛車は速度を落とすことなく、駐車場の前を通り過ぎた。
 何やってんだ、俺は。
 まあ、まて。
 心の準備をするためだ。
 そうだ、ここを曲がってだな、ぐるっと回って、で、もう一度駐車場の前に戻ってくるわけだ。
 よし、今度こそ止まるぞ。

「………………」

 俺と愛車は、またしても駐車場の前を通り過ぎた。
 なさけない……。
 自分が嫌になるな。
 なんて意気地の無さだ。
 わかっていたんじゃなかったか?
 覚悟を決めてここに来たんだろ?
 はあ……。
 そのうちに、また駐車場が見えてきた。
 今度こそ、止まる……止まるはずだ……そうだ、止まるぞ……!

 駐車場の近くに幸子が立っていて、こちらに手を振っていた。

「………………」

 俺と愛車は、みたび駐車場の前を通り過ぎた。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
59Res/43.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice