663:名無しNIPPER[saga]
2020/01/26(日) 10:33:01.22 ID:HHDh2TBt0
グウィンドリン「太陽の血筋を犠牲に月の血筋を立て、神代に変革をもたらさんとしたベルカの謀は、こうして終わりを迎えた」
グウィンドリン「我が母はキアランによって弑された。オーンスタインは母の遺言に添い、グウィネヴィアを追放されし火の神フランの元へ送ると、我が兄、名を禁じられし長子の元へと去った」
コブラ「………」
グウィンドリン「我ら月の子らは幽閉より解放され、太陽の子は散り散りに旅立った」
グウィンドリン「各々支える者を失い、戦う理由を無くした争いは、石床に撒かれた熱水のように冷めていった」
ベルカ「うっ…ぐぐ…」
ベルカ「はっ!」バッ
伏していたベルカは目を覚ますと、すぐさま跳ね起きてかの女神の姿を探した。だが視界に映るのは、泣き崩れる者や押し黙る者の姿ばかり。
ベルカは負傷を圧して、その者たちの一柱たるオーンスタインに歩き寄ると、何が起きたかを知った。
ベルカ「……エレーミアス様…なんということを…!」
オーンスタインに抱かれた灰色の塊は、ベルカに言葉を返さず、オーンスタインは黄金の鎧の奥に嗚咽を噛み殺している。
沈黙ばかりが返されて全てを悟ったベルカは跪き、その顔には悔恨と苦悩が満ち、両眼は涙に濡れた。
ベルカ「エレーミアス様…私は…こうなる事など……望んでは…」
オーンスタイン「…ならば何を、望んだというのだ…」
ベルカ「あの者の……あの者の秘める闇の恐ろしさを知ることがあったならば…エレーミアス様も、このような事など…」
オーンスタイン「決して起こらぬはずであったと口を滑らすつもりではあるまいな!!」
ベルカ「!」
竜狩りが怒声を張り上げた途端、泣きすする者も押し黙る者も一様に、口を閉じ眼を見開いて、跪くオーンスタインを見た。
灰色の塊を抱く竜狩りの腕は震えず、声にも既に震えは無い。
しかしその怒りは天を衝かんばかりに膨れ上がり、十字槍を拾おうものならその場にいる者を誰彼構わず斬り伏せかねない程に、吐口を求めていた。
それを抑えて捻じ伏せるように、続くオーンスタインの声は低く、穏やかなものであった。
オーンスタイン「貴様の護るべき血筋の母……エレーミアス様は崩御なされた。弑した者は貴様だ、ベルカ」
オーンスタイン「貴様がいかなる謀を企て、何を成したのかは最早どうでもよい。我らの主が亡き今、貴様の恐れた何者かの謀も既に絶えたか、あるいは既に手遅れだろう」
オーンスタイン「ならば貴様の生命にも、我が生命にも、続く価値など無いのだ」
ベルカ「…殺すのなら、今にこそ頼…」
オーンスタイン「ならばニトに祈りを捧げてみるか?応えはせぬぞ」
オーンスタイン「行け。ここに貴様の死は無い」
ベルカ「………」
哀しみに精根尽き果て、しかし介錯さえも許されぬ身に堕ちた女神は、言葉も無く立ち上がり、神々に背を向けて歩き始める。
オーンスタイン「光の中に、闇の中に、永遠に生きるがいい」
その背に効力も不確かな呪いの言葉を受け、ベルカはしばし立ち止まったが、再び寄るべ無く歩き始めた。
帰る家を永遠に失い、背く主さえも失くしたその背は、まるで流浪の人のようだった。
グウィンドリン「この事変を皮切りとし、太陽の血筋を奉ずる多くの神々がアノール・ロンドを去った」
グウィンドリン「寵愛の女神フィナも失意の中に都を去り、ハベルも自身の武具を捨て、己を呪いながら元いた野へと消えた」
グウィンドリン「王家の血にある者を弑した罪により、キアランはベルカ無き暫定政府による裁きを受けたが、王家の血の者の命にあくまで忠実であったからこその凶刃であったと認められ、死罪の代わりに、王命あるまでの幽閉を受けた」
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