632:名無しNIPPER[ saga]
2019/10/25(金) 09:18:42.48 ID:JyVx6aTo0
ベルカ「今のは……」
法官「珍しい魔術というものですよ。女神であるとともに魔女でもある貴女なら、今の行いに魔力が働いた事も分かるでしょう?」
ベルカ「………」
法官はゆっくりと振り向いたのちに、歩きながらベルカに語り掛ける。
自らの脚の存在を忘れているのか、ベルカは一足退がることさえ出来ず、その場に立ち竦んでいた。
法官「太陽の血筋を弱めるのならば、突くべき弱みがあります」
法官「それは心です。まずは太陽と、太陽を慕う者達の心を攻撃するのです」
ベルカの前に立った法官は、汗ひとつ無い右掌をかの神の前に差し出し、指を開いた。
そこにはベルカの知るままの姿として、宝具として何の変哲も無いと言えるペンダントがあった。
法官「ひとつを去らせ、ひとつを封じ、ひとつを繋ぎ、ひとつを殺す。全てを殺してはならない。全てを繋ぎ止めてはならない」
法官「人も神も、こと支配被支配の関係という点については、いくつかの共通点があるという事は、貴女も見てきたはずだ」
法官「だからこそ今回は殺しが必要なのです」
ベルカ「まさか…そなたは…」
法官「アルトリウスを殺しなさい」
法官「あれが死ねば四騎士は封じられ、太陽の血筋の復権を求める者は去り、暫定政府の力に浴する者達は貴女に繋がれる」
グウィンドリン「………」
女神の瞳の中に陰りを見た法官は満足すると、ベルカにペンダントを握らせ、ベルカの隣を抜け、歩き去って行く。
法官「神々に黄金の時代を」
一室の出入り口を出る際に、法官は一言そう漏らして、去って行った。
クリスタルボウイの記憶の風景であるために、法官が去った一室は闇に溶け始め、崩れてゆく。
ベルカの動きも止まり、蝋燭の炎も揺らぐ事なく、その形を揺らがせてゆく。
溶けゆくベルカの眼の焦点は定かではなかったが、その瞳からも、コブラには多くのものが読み取れた。
またも闇へと転移するその一瞬、コブラが見たもの。
それは強い焦燥や後悔、恐怖の類だった。
コブラ「後悔したってもう遅いぜ。真面目な奴ほど同類を殺すはめになる。神の国に引きこもってないで、もっと外を見ておくべきだったな」
コブラ「しかしボウイの奴も派手な魔法を使いやがる。本当に誰にもバレなかったのか?」
グウィンドリン「アノール・ロンドの城内にて闇の魔術が振るわれる事など、本来あってはならないはずだった」
グウィンドリン「だが、我が父と兄が人の闇を探り始めた時より、城に闇の気が漂うなども、さして珍しい事では無くなっていたのだ」
グウィンドリン「シース公の結晶には、人の闇と似た呪いが込められている。その結晶を大書庫に置き、六目の伝道師達が物品を持ち寄って毎日のように城と書庫を行き来したとあれば、闇の気も移る」
グウィンドリン「ゆえに目撃者無き闇の気の乱れとあれば、疑いの目も法官ではなく、大書庫にこそ向けられようというもの」
コブラ「影を隠すなら闇にってワケか」
グウィンドリン「これからしばらくの間、映る記憶は無い。全てが終わったのちに、神々のしたためた書物による知識として…」
コブラ「ただ知るのみである、だろ?」
グウィンドリン「それに尽きる」
コブラ「OK、それじゃあ話してくれ」
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