614:名無しNIPPER[saga]
2019/10/05(土) 02:39:57.77 ID:wyHlKdSF0
古き日のグウィンドリン「報告?我ら月らである我が身に、何かせよというのか?政を執り行う権利は、竜の血を引く忌子には無い」
古き日のグウィンドリン「それとも、白竜公を書庫にではなく、我が居室に押し込めよとでも言われたか」
石鎧の戦士「………」
石鎧の戦士に、霊廟の主は母から聞いた事実に、現状への怒気と諦観を含めて言葉を返した。
石鎧の戦士は投げ返された言葉に身じろぎのひとつしない。
それだけでも、かつてのグウィンドリンは事実が覆い隠す真実を看破したが、確信を持つためにも更に言葉を連ねた。
古き日のグウィンドリン「竜の敵対者が竜を護るなど、信奉者達への突き放しにあたると、汝は疑いは持たぬのか?」
石鎧の戦士「我が主は岩のハベルに在らせられるゆえ」
古き日のグウィンドリン「そうか。では下がれ」
石鎧の戦士「はっ」
ハベルを信奉する戦士は跪いたまま更に頭を深く下げると、立ち上がり、石音と共に霊廟を去った。
残された霊廟の主は、再び微睡みの中に沈み込む。
ハベルはその信奉者共々、やはりシースの追放においても巌のごとく動かぬことを知れたのだから。
グウィンドリン「岩のハベルに、白竜公は斬れぬ」
グウィンドリン「白竜シースには暗月の光が流れ、暗月は太陽と混ざり合ったのち、このアノール・ロンドを築いたのだから」
コブラ「つまり岩のハベルとかいう奴は、王にではなく女王……アンタの母上殿に忠誠を誓っていたってわけか」
グウィンドリン「そう言い切るだけの根拠を聞こう」
コブラ「簡単な理屈さ。最初の王がいなくなってその後継者も弾劾の末に追放されたとあっちゃあ、女王にではなく王に忠誠を誓う騎士に、不安因子の隔離なんていう任務が回ってくるはずが無い。囚人の監視に囚人を使う刑務所なんて、どこのお偉いさんも使いたがらないさ」
コブラ「それに、どうせアンタの国もお馴染みの後継者争いなんかをやらかしたんだろ?だったら尚のことってものだろ」
グウィンドリン「ふむ……概ね貴公の察しの通りではあるが、それは一つの面に留まる」
グウィンドリン「我が母、月と太陽の女神に、岩のハベルは確かに忠誠を誓っていた。だがそれ故に享受した任務を、かの神はただ遂行するだけの者でも無い」
グウィンドリン「岩のハベルは自らを白竜公の敵対者とし、月と太陽の子たる白竜シースを護り、我ら月の子らを護り、神々から不和の種をひとつ摘み取る道を選んだのだ」
グウィンドリン「たとえそれが友たるシースとの今生の別れとなり、その絆を永久に穢し、覆い隠すものであったとしても」
コブラ「じゃあ、アンタがさっきの使いっぱしりに不機嫌だったのは…」
グウィンドリン「魔法に抗する術を創るならば、魔法を師とし、魔法の術理を知らなければならない」
グウィンドリン「皮肉なものだ。魔術の敵にして竜断の神と呼ばれしハベルの心中を察していた者が、我ら月の子らと、知りたがりの大鎚騎士だけだったとはな」
コブラ「大鎚騎士?誰なんだそいつは?」
グウィンドリン「気にする事は無い。愉快な者ではあったが、あれも輪の都に発って随分経つ。最早生きてはいない」
グウィンドリン「貴公が知るべき者達は別にある。それらは先だ」
古き日のグウィンドリンと、かの神を囲む広間と静寂は、闇の中に崩れて消える。
次の転移がどのような景色を映すのか、少し以前からコブラは内心楽しみに思い始めていた。
だが崩れた景色は闇に染まったまま、石床も灰の荒野も映さない。
コブラ「ん?また記憶が無いのか。それともコンセントが抜けたかな?」
コブラの軽口が闇に吸い込まれたが、闇は何もみせず、音も返さない。
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