613:名無しNIPPER[saga]
2019/09/11(水) 03:18:40.25 ID:eROt+AEL0
剣槍を携え、ベルカの横を通り過ぎ、大広間から歩き去らんと歩を進める王に、神々は気圧されるように道を開けた。
王が歩く最後の道には、恥を知らぬかと王に罵倒を浴びせ掛ける者、見捨てられると怯える者などの声が二、三転がり込んで来たが、それが石床に消えるほどに、道は静かだった。
王へ注がれる視線は様々に心を含んでいたが、王はどれとも視線を絡めず、足元さえも見ずに歩き去っていく。
ベルカ「太陽の長子。無名の王よ。汝に太陽の導きを」
背中に仮初めの惜別を投げかけられても、無名の王は振り向かず、立ち止まりもしなかった。
無名の王「太陽は既に導いた。ゆえに我は示された地へとゆくのだ」
王はそのまま歩き去り、大聖堂を出て大階段を二、三降ると、剣槍を天に向け掲げた。
空の雲は剣槍に惹かれるようにして集まり、風と共に剣槍と王を取り囲む。
足元にも雲と風の塊が生じ、周囲を飛び回る風に雷が含まれはじめた瞬間…
ドドォーーッ!!
無名の王は激しい落雷と共に姿を消し、遠くの空の雲間には、小さく輝きながら遠ざかる点が一瞬現れ、その輝きも消えた。
人への弱腰や、闇と竜の増長などを不安視していた臆病な者たちは、王を庇わなかった身でありながら追放について難色を示す。
広間の神々が互いに様々な言葉を行き交わせている間、ベルカとクリスタルボウイだけが、王が去っていった正門を静かに見つめていた。
グウィンドリン「兄上がアノール・ロンドを見捨てたのか、それとも我らが兄上を見捨てたのか、兄上がついに仔細を語らなかったゆえ、最早分からぬ」
グウィンドリン「だがこの後に起きた事を思えば……兄上は恐らく、我らが犯してしまった誤ちが何であるかを、遥か以前に看破していたのだろう」
コブラ「その過ちってのはなんだい?」
グウィンドリン「それは明確には……いや、分からぬ……だが確かに、我は言い知れぬ焦燥を思うのだ」
グウィンドリン「この怖れは、クリスタルボウイの記憶を知る遥か前……父上が我ら月の子らを秘する事を決めた時から、我が内に巣食っている」
グウィンドリン「兄上の追放は、先王だった父上の行った政を兄上が崩さなかった事に起因しているが……だが、先王グウィンの政により、アノール・ロンドは栄え、神々は栄え、人も栄えた…」
グウィンドリン「コブラ…我は恐ろしいのだ…兄上がどのような真実を見出したのか…それを知る勇気が無い…」
グウィンドリン「我が記憶に、兄上の見た真実が無い事に…心から安堵してしまうのだ」
コブラ「知りたくない事があるなら、俺もそこは詮索しない」
コブラ「俺とレディはただ生きて古巣に帰りたいだけだ。あんたの古傷を抉ることや、新たなる恐怖みたいものにも興味は無いのさ」
コブラ「だが、知らなきゃならんと言い出したのはアンタだ。苦しくならない程度に続きを頼むぜ」
グウィンドリン「…ああ、そうだな」
神々の喧騒は崩れ、大広間は溶け始める。
新たな転移はグウィンドリンとコブラを、また別の広間に立たせた。
横長の広間の中心には、横たわる大碑石を背負ったピラミッド状の低階段があり、低階段の頂部に置かれた椅子には、古き日のグウィンドリンが座していた。
大広間の光源は、縦に長い大窓からの陽光のみであり、ゆえに広間は薄暗く、コブラに寒々しささえ感じさせた。
コブラ「今度はアンタの軟禁部屋か……お付きの者の一人や二人、せがんだってバチは当たらないんじゃないか?」
グウィンドリン「父上と兄上がアノール・ロンドを去り、ただ位の繰り上げが生じたに過ぎないのだから、扱いなども重くある必要は無いと自重していたのだ」
グウィンドリン「それに、従者をつけたところで、命じるような事も起こらぬのでな」
静謐な孤独を守る広間に、どこからか石を擦り合わせる音が小さく響く。
石の足音は広間の入り口手前で止まり、音の主は跪いた。
古き日のグウィンドリン「来訪者よ。暗月の君の聖廟に、何用で参った?」
古き日のグウィンドリンは、薄闇に半ば眠っていた意識を覚醒させ、音の主に問いかけた。
石鎧の戦士「岩のハベル様の使いでございます。無名の王追放の際に、反乱の恐れありとしてベルカ様の命の元行われた、我が主の主導による白竜公の裁定が定まりましたので、その旨の御報告に参りました」
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