604:名無しNIPPER[saga]
2019/08/12(月) 07:11:31.66 ID:mOGgf22A0
抜けるような晴天と眩い太陽がアノール・ロンドを見下ろす中、王城の正門前では、神々による『儀式』が行われていた。
長い階段の最頂部に、銀騎士の背丈ほどもある大剣を穿いた王が立ち、その両脇には太陽の第一王女と第一王子が立つ。
王の背後には女王が控え、その隣には法官の影が差している。
月の子らの姿はどこにも無く、階段の両脇には黒騎士が層を成して立ち並び、剣を胸元に立てていた。
宙に浮かぶ銀騎士達には神々が混じり、そこにはオーンスタインの姿もあった。
コブラ「流石だな。神話時代の全盛ともなると、空を飛ぶくらいは普通ってわけか」
グウィンドリン「我ら神々が火を受けた時、備わった力だ。アノール・ロンドも飛翔を前提とし、建てられている」
グウィンドリン「だが皮肉と言うべきか、世界の火の弱まりによって最初に失われたのも、この力だった」
コブラ「あんたらの翼も蝋だったわけだ。で、王様は何処に行こうとしてるんだ?剣を持ち出すんなら、バカンスってわけでも無いんだろ?」
グウィンドリン「然り。アノール・ロンドを築く前は、人の闇が強き時であったため、火の弱まりもまた、勢いを早めていた」
グウィンドリン「ゆえに我らが王はこの日に、火継ぎへと向かわれたのだ」
コブラ「火継ぎ?……するってえと、最初の火とやらに薪でも焚べに行くのか?」
コブラ「!!……まさか、あんたが俺を大王グウィンの後継にしようとしたってのは…!」
ゴオンッ!
太陽の第一王子、冠の偉丈夫が、幅広の刃を持つ剣槍を、石畳に突き立てた。
それを合図に銀騎士達は一斉に剣を掲げ、大王は階段を降り始めた。
大王が黒騎士の一柱の前を通り過ぎると、黒騎士は王に続いて段を降り、黒騎士の列は王が歩を進める毎に、王の隊列に加わった。
王の子らは声を上げず、家臣達は顔を上げず、貴民達は音を立てない。
グウィンドリン「貴公の心は今、我が心と繋がっている」
グウィンドリン「言い淀むことは無い。貴公の疑いは既に知っている。貴公の思う通りだ」
コブラ「………」
グウィンドリン「王は薪となり、身に宿るソウルを燃やし、世界を保つ」
グウィンドリン「謁見の間にて我が姉の幻影が語ったのは、その役を貴公に引き継がせるという意」
グウィンドリン「大いなる火の薪となる者。不死の試練とは、その者を選び出すための謀なのだ」
階段を降り終わり、王は地を歩くように、空中を歩いた。
黒騎士達もそれに続き、あるはずのない足場を踏みしめては、鎧を擦らせる音のみを零した。
飛べぬ者のための回転階段は動かない。その先に続く、絵画の館に隠れる者達に、儀式への参加は認められていない。
グウィンドリン「真実を知ったが故の驚き、疑いも、我は全て見渡せる。だが、驚くべきはやはり我が方であろうな」
グウィンドリン「貴公は何故、我を恨まぬのだ?」
コブラ「止むに止まれぬ事情ってヤツには、俺も懐が深くてね」
コブラ「それに俺の世界は、あんたなんか及びもつかないような大悪党ばかりでな。貧乏くじ引かされただけの政治家なんか、数に入らないのさ」
グウィンドリン「貧乏くじ、か…」
コブラ「よしてくれ、今更センチになる歳でも無いだろ?」
グウィンドリン「…いや、消沈しているわけでは無い」
グウィンドリン「ただ、安堵しているのだ。貴公に弑されることも、謀った者の権利と義務であるがゆえに」
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