567:名無しNIPPER[saga]
2019/01/19(土) 12:28:19.50 ID:PkqqzrqU0
ボファッ!
維持する者がいなくなり、薄れゆく白霧を、仮面の騎士は突き抜けた。
霧の先にはやはりコブラの姿は無く、仮面の騎士の脚は止まらない。
バッ!
仮面の騎士は正門を抜け…
バシイィィーーッ!!
ソウルの槍に背中から射抜かれた。
父の仮面「フ……フフフ…」
正門の扉の陰から、大袈裟に大きい帽子を被った魔術師が姿を現わす。
大帽子の老人はやや息を荒げていたが、杖に込められた魔力は揺るぎない。
仮面騎士はその場に両膝をつき、先に倒した神々の一柱の死に様を思い返した。
父の仮面「やれやれ……お前がずっと隠れていたせいで、神が一人死んだぞ」
父の仮面「かわいそうに……加勢してやれば、助かったかもしれなかったのに」
ローガン「不意打ちでもせぬと、貴公にソウルの槍は当たらんのでな」
ローガン「それにこれでも急いだ方なのだよ。不死とはいえ、老骨というわけだ」
父の仮面「老骨か……フフフ…」
ドシャッ…
ローガン「………」
倒れ、力尽きた仮面の騎士が消えゆく様を見ながら、ローガンはすれ違ったオーンスタインと、竜狩りに抱えられる神を思った。
暗月の君主グウィンドリン。謎多き異形の神。
竜狩りオーンスタイン。古竜を狩り、神代を支えた四騎士の長。
それらが旅の一行に加わり、不死と異邦人を助けた事にも甚だ驚いたが、ローガンの心を掴み離さぬものはまだある。
すれ違う一瞬、ローガンは竜狩りに抱えられたグウィンドリンの声を聞いた。
それは偲びの言葉であり、太陽の光の王の導きに働きかける祝詞だった。
ローガン(忘れられし神はただ何処かへ去ると思っていたが……神々にも死があるとはな…)
ローガン(死に祈りを捧げ、主君に祈りを捧げ、去りゆく死者を偲ぶ……神が最初の死者に祈る…)
ローガン(神が神たる最初の死者に祈るのならば、最初の死者は何者に祈る?)
仮面の騎士の亡骸は、膨大なソウルを残して消滅した。
その騎士がどこの篝火に蘇るかを案じつつ、ローガンは来た道を戻る。
戻りながらも、グウィンドリンの祈りにローガンの心は珍しく動かされていた。
魔道とは、神の恵みの一つたる魔法を、信仰ではなく理知によって探求し、不変の理を見極め、人をより高みへと誘わんとする行いである。
不死立ち、魔道を極めんと神の地に至り、ローガンは改めて智慧を深め、神の持つ智慧ではなく、神の持つ神力と物語に憧憬を馳せる信仰を否定してきた。
だが、探求すべき智慧持つ神々には物語があり、その物語は酷く人間的だったのだ。
神は感情に揺らぎ、不確かで、脆く、しかし輝かしく、圧倒的に大きなうねりを容易く育むのである。
その様はローガン自身を含めた、人と似ていた。
ローガン「美しき暗月よ、泣いているのだろうか」
帰路を歩きつつ、ローガンはらしくなく、恐らくは人生で始めて詩的な『らしきもの』を呟いた。
ある一柱が没し、旅の助けにもなったであろう戦力を喪ったというのに、大魔術師の心は智慧に満ちていた。
その智慧は、聖職者の説く信仰にも似て…
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