モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part13
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181: ◆GPqSPFyVMNeP[sage saga]
2016/06/17(金) 22:13:15.18 ID:Lzf9MzY5O
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 問題の美容セミナーの会場は旧東京エリア・シタマチの一画、何らかの更地に(おそらく無許可で)建てられた大規模プレハブ建造物であった。
 受付で案内状を提示すると、『美容エキス』とプリントされた袋――キャンディの試供品――を手渡された。これが記念品であろう。
 会場に集まった客の年齢層は概ね二極化しており、美容に敏感かつ社会人より時間の融通が利く思春期付近の学生と、相当額を貯め込んでいるであろう高齢者が目立つ。
 誰もが深海魚めいて目をぎらつかせる一方で、熱に浮かされた客席に疎らに配された異物、狩りの悦びを満面の笑顔で塗り隠した彼女らは、およそ20代から30代。間違いなくサクラだ。

「うん、フツーにおいしっ」

 洋子は記念品の『美容エキス』キャンディを一粒、吟味した。有害薬物ならば即座に口内焼却するつもりであったが、ヒーロー味覚はそれが砂糖と水飴と香料の塊に過ぎぬと安全サインを出した。
 ややあって、光沢のある紺色スーツとラメ入り赤金ネクタイでキメた薄毛の中年男が、ゴザ敷き客席の正面壇上に姿を現すと、会場内の喧騒はいくらか収まった。
 男はオジギし、人懐っこさを演出する笑みを浮かべて口を開いた。

「エー、皆さんね、エー、今日はお忙しいところをね、よくおいで下さいまして。せっかくですのでね、今日ここにいらっしゃる皆さんだけにですよ、いや皆さん美人さんばかりなんですけれども、もっとお美しくなっていただけるチャンスをですね、私ども、特別価格でご用意させていただきまして」

 オオ、と最初は数人分の疎らな声が、すぐに波となってどよめいた。洋子は小さく鼻を鳴らした。言葉数が無駄に多く、決してスムーズとは言えない進行。三流MCか?
 否、これは演技だ。こうした不完全という人間臭さの演出は、客のわずかに残った不信感を払拭し、財布の紐を緩めやすくする効果がある。
 集団催眠めいて判断能力を鈍らせ、商品を買わせる、悪徳商法でも初歩……だが、手口は鮮やかだ。洋子は何年も前の学校での授業を思い出しながら、口の中でキャンディを転がす。



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