390: ◆/D3JAdPz6s[saga sage]
2023/08/29(火) 22:59:47.78 ID:Bxagxrqso
試合用フィールドの真ん中あたりで、私はじりじりと立ち上がった。
薄曇のなんでもない天気、午後のなんでもない時間。
妙なことを尋ねる、とそのときは思ったものだ。
???『“オレは、強くなりたい”』
???『“ただそれだけで、理由なんてないです”』
???『お前さんは、いつもそう言っていた』
師匠は両腕を組み、眉間に皺を寄せて立っている。
衣服が風にはためいて、首から下げたボールがちらっと見えた。
本来ならばリーグの規定違反だ。
機械の使い方が本当にわからないとみんなが知っているから、誰も咎めないだけだ。
???『それだけか』
???『お前は強くなって、何がしたいんだ』
思わず漏れた自分の呻き声はあまりに間抜けだった。
たぶん不思議そうな顔をしていたのだろう。
実際、何を尋かれたのかよくわからなかった。
師匠は片手で顎をさすり、ああ、とかうう、とか唸っている。
???『例え話は本質を見失うから、あまり好きではないんだが』
???『楽器を弾けるようになったら、そこが終着点か』
???『絵の描き方を会得したら、それで終わりか』
???『そうではないだろう』
言われたことを、私は何度も頭の中で反芻した。
彼の言わんとしていることはわかる気がする。
腹は立つが。
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