210: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/06/16(金) 23:03:05.31 ID:xCyGumQ8O
ダゲキが両手でバスケットを抱え歩く姿が見える。
しきりに足元を気にしている。
そこまで重い荷物とも思えないが、妙に進みづらそうだ。
彼の向こうには心配そうなヨノワールの、あるい眠そうなジュプトルの目が並んでいる。
アロエは笑顔でこちらを見守っている。
彼女が、声には出さず口だけを動かすところが見えた。
アロエ(が、ん、ば、れ)
口の動きは、そう言っている気がする。
肝心の激励が誰に向けられたものなのか、よくわからなかったが。
自分は何も頑張りようがないはずだ。
ダゲキにいたってはアロエに背を向けている。
彼女の口元さえ見えまい。
追求しようと思えば、いくらでもできるかもしれない。
だがミュウツーは、『人間は不思議なことをする』と思うに留めることにした。
ダゲキがミュウツーの足元に到着し、立ち止まったからだ。
眼前までやって来たダゲキを、ミュウツーはじっと見下ろした。
バスケットをわずかに差し出す姿勢で待っている。
表情はどこか不満そうだ。
ミュウツーは今まで読んでいた本を勢いよく閉じ、脇に置く。
それからバスケットの中身に手を伸ばした。
なるべく身体が露出しないよう、いつもと同じように注意する。
だがその“いつもと同じように”気をつけることが、今はこの上なく滑稽なことに思えた。
自分の身を守るために、必要なことだと考えてやっているのに。
“自分の身を守るために”。
なんと自分本位なのだ。
きっとそれこそが、すべての間違いの元だったのだろう、と思う。
ミュウツー『悪いな、ひとつもらおう』
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