173: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/03/28(火) 00:26:34.32 ID:n9gHiMCwO
少し離れたところで、ちりっ、と蝋燭が唸った。
一瞬、アロエはその方向に目を向ける。
手元の照明と照らされる本が明るいせいか、あまりよく見えない。
じっくり待てば目が慣れて、書斎の壁一面に並ぶ書架も判別できたかもしれない。
だがアロエはすぐに視線を手元に戻し、再び字を追った。
問題がないのなら、眺めている時間は不毛なだけだ。
アロエ「――そして、二人は末永く、幸せに暮らしましたとさ」
アロエ「おッしまい」
最後の部分に勢いをつけて言うと、アロエは自分の膝を見下ろした。
ちょこんと座って本に目を向ける、やけに小柄なジュプトルを見る。
ジュプトルは陽気な響きで『しゅっ』と小さく唸った。
アロエ「……楽しかった?」
ジュプトルは器用に上半身を捻り、アロエを見上げた。
ひときわ甲高く鳴く。
なにかを伝達しようとしているようだ。
細く小さな頭をかたかたと振り、痩せぎすのジュプトルは頷いてみせた。
どうやら、『今回も』喜んでくれているようだ。
アロエは思わずほっとした。
というのも、膝に座らせるだけで一時間以上かかっていたからだ。
アロエ「そーお、よかったわねえ!」
そう応じるアロエも、自然と笑顔を浮かべていた。
彼らがここへやって来たときの、このジュプトルの目つきが脳裏をよぎる。
複雑な経緯を辿った野良が人間に強い警戒心を持つことは、残念ながら珍しくなかった。
さまざまな感情が入り交じったその視線は、容易に忘れられるものではない。
ただその目に浮かぶ、憎悪を押し退けほどの『好奇心』だけが救いだった。
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