161: ◆/D3JAdPz6s[saga]
2017/01/25(水) 01:37:51.52 ID:UMm5BcIdO
夢を見た。
かつて見聞きしたことをきわめて曖昧に再生する夢。
馴染み深い内容の夢。
まるで古い映画か、劣化した記録映像だ。
『彼女』との生活で、一度だけ見たことのある映像と似ていた。
その夢の中で、自分は目を薄く閉じている。
膝を抱え、ひんやりした硬い床に腰を下ろしている。
目を開けて確認するまでもない。
自分はこの場所を知っている、とわかっていた。
よく知っている場所だ。
よく知っていた場所だ。
きっと、今ではもう存在すらしていない。
――いま……は、さすが……おまえも つかれただろう
少し離れたところから、誰かの声が聞こえてきた。
くぐもって聞き取りにくい。
だが聞き覚えがある。
声は、こちらの反応を気にもせず語りかけている。
――それにして……よくやったな
――イダテン
声の主が名前で呼びかける。
名前の部分だけがはっきり耳に飛び込んできた。
まるで、そこだけ耳元で囁かれたかのようだ。
にわかに、苦い痛みが胸を掻き乱した。
そんな風に特別な思いを持つのは、きっと自分だけだろう。
ここの人間たちにとって、名前はただの記号だからだ。
対戦するどちらに金を賭けるのか、人間たちが間違えないための識別記号だ。
あるいはその、血腥い娯楽に少しでも興奮するための要素だったかもしれない。
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