81:曇天の霹靂(お題:霹靂) 1/4 ◆NSr7d3y3ORk4[saga]
2016/03/09(水) 17:59:29.13 ID:BtpY/IcOo
「私が生まれるずっと前、あの空はいつも晴れていたんだって」
彼女は口元を覆う防塵マスクをずらしながら、しかし視線は双眼鏡から外さずにボクに告げる。
ボクはというと、彼女の真似をするようにどんよりと蠢く鈍色の空を飽きつつもただ眺めていた。
「あの灰色の霞が一面真っ青なの、想像できる?」
「見渡す限りが青一色だなんて、少し怖いね」
彼女は僕の面白味のない返答にふくれながらも、双眼鏡を持ち上げる腕を休めることはない。
もし赤色なら、彼女のように包丁と仲が良くなければよく目にすることができる。 緑色ならば道に積もった灰をどかせばすぐに会えるだろう。
青は人工物でしか見たことがない。 海沿いの土地に住んでいればすぐに見つけられるだろうが、生憎とこの辺りは鶯色の山に囲まれている。
「テレビもラジオにも砂嵐は飛んでいなくて、雨の日じゃなくても傘は差さなくてよかったの」
そう言って彼女はようやく双眼鏡をおろし、肩や髪に積もった灰を払い落してボクにしたり顔混じりの微笑みを向ける。
気恥ずかしさから逃げるように、ボクは目線を慌ててレンズの向こうに逸らした。
肌寒さを覚えながらも双眼鏡を覗き込み、あるかどうかも分からないサザンカ前線を探す。
今日こそ"青空"を見れるかもしれない。 制止するボクを振り切って飛び出した彼女は、そう言い残して台風のように去っていった。
遅れて荷物を彼女に届けるのはいつもボクの役割だ。
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