374:孤独の味(お題:酒)2/7[sage]
2017/01/08(日) 16:35:47.95 ID:eqTV8GGAo
その年の夏休み私は卒論の準備が順調だったため、実家に帰ることにした。ありがちなことではあるが、一人
暮らしのうちに身につけた私の価値観と両親の価値観とにズレが生じており、ほんの三日生活を共にしただけで
険悪な雰囲気が家族の間に生まれてしまった。そういうわけで私は帰省を後悔しながら東京の下宿に戻り、する
こともないので大学で研究資料を集めることにした。
その時偶然出会ったのがサイトウだった。彼は私と同様に下宿にとどまり(私は一度は帰ったわけだが)、図
書館に通って勉強を続けていたという。
彼と図書館で時間を過ごし、休憩がてらに二人で自販機のコーヒーを飲みながら世間話をした。両親との喧嘩
のために孤独な気分に追いやられていた私は、たいして仲が良いわけでもない彼に遭遇したことをやけに嬉しく
思った。それから初めて彼と夕飯を共にすることになった。
私は彼と大学近くの有名なカレー屋に行き、それから食後にどこかへ行こうという段になり彼が酒は飲めない
と判明したので、カフェでコーヒーを飲むことにした。
「今更言うのもなんだけど」サイトウはブラックコーヒーの水面を見ながら言った。「昼間図書館で会った時、
ずいぶん顔色が悪かったね」
「そうかな? まあ、確かにいい気分ではなかったけど。勉強なんか大嫌いだからね俺は」
彼は微笑んでコーヒーを一口飲んだ。
彼が口を閉じてしまったので一瞬沈黙が流れる。私はつい、何か話そうとして口を開いた。
「実は実家に帰って親と言い合いになってね。早く自立しないといけないと強く実感したよ」
「言い合い?」
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