勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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90:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:55:48.12 ID:09+TUdRc0
 勇者は『滅びた国』の正門から町の中を覗き込んだ。
 とある家の中から、年若い少年少女の手によって死体が運び出されていた。
 死体は車輪のついた台車に乗せられ、町の奥へと運ばれていく。
 恐らく町の奥に共同墓地の類を設けているのだろう。
 孤児院で院長が言っていた『作業』とはこのことだった。
 世界から魔物がいなくなったことで、ようやくこの国の子供たちは我が家に戻り、手付かずだった肉親の遺体を弔うことが出来始めているのだ。
 それでも、この国から全ての遺体が片付けられるまでには、まだ長い時間がかかるだろう。
 実は勇者は、以前少年たちに手伝いを申し出て断られた経緯がある。
 この国の子供たちは、全てを自分達の手で行うことを選んだ。
 どれだけ時間がかかろうとも、自分達だけで故郷の滅亡という事実に決着をつけると宣言したのだ。
 それはまるで、あの男の信念に従うかのように。

勇者「……頑張れ」

 勇者は『滅びた国』に背を向ける。
 実は、初めてこの国に足を踏み入れた時から、気になっていたことだった。
 あれだけ多くの人間が死んでいるのを見て、だけど、子供の死体は見かけなかった。
 あの時は、色々と他に衝撃が大きすぎて、そこまで思い至らなかったけれど、よく考えれば簡単に分かる事だった。
 たった一人で国を滅ぼすという暴挙に出たけれど、あの男は子供だけは手にかけなかったのだ。

勇者「……まあ、子供にはまだ、自分の命の決定権なんてないしな。結局、全部親次第なんだし」

 だから何だという話ではある。
 あの男は結局、その子供たちから幸せな家庭というものを奪っている。
 極悪非道であることには変わりはない。
 だけど――――



『俺の国は完膚なきまでに滅ぼされていて、生き残りはゼロだった』




勇者(――――かつてあいつは、そんな風に俺に語った)


勇者「…………お前の言うことは、本当に嘘ばっかりだ。騎士」







第二十九章   さよなら、嘘つきの君











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