勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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701: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 20:03:26.63 ID:uAQKxthS0
ようやく光に目が慣れて、ぼやけていた視界が輪郭を取り戻す。
戦士の目の前に広がっていたのは、巨大な植物群だった。
色鮮やかな、生命力溢れる緑、緑、緑―――――
どうやら大量の木々が密集する密林地帯にいるようだ、と戦士は自身の置かれた状況を把握する。
そこで気付いたが、戦士は巨大な木の根にその身を絡めとられていた。
戦士「いよ、っと……」
戦士はその身を束縛していた木の根を引きちぎり、立ち上がった。
地面に降り立ち、体を捻る。ぱきぽきと小気味良い音が鳴った。
まともに体を動かすのも、随分と久しぶりだ。
バキバキと首を鳴らしながら、戦士は周囲の様子を見渡した。
――――しかし、植物の力とはすさまじいものだ。
かつて起きた、人類を絶滅に追い込むほどの天変地異は、植物界においても甚大なダメージを与えた。
すっかり荒野と化した地上の光景を、戦士は確かに目にしている。
それでも長い年月をかけて植物は成長し、勢力を拡げ、かくも雄大な自然の様相を再び創りあげた。
鳥や獣の鳴き声が森の中に反響する。この森には多くの命が息づいているのだ。
戦士はふと、自分が全裸であることに気付いた。
まあ当然か、と戦士は思う。
自分の知る景色から激変した周囲の状況を見るに、自身が土に埋もれてから相当な期間の年月が、それこそ少なくとも数千年規模で経過しているはずだ。
身に着けていた衣服などとっくに朽ちて無くなってしまっただろう。
とはいえ、人類が絶滅して久しい。
はしたなくはあるが、今更人の目など気にする必要もあるまい。
戦士は気にせずそのままの姿で行動することにした。
行動―――といっても、陽光に誘われて気まぐれに起きただけだ。
やるべきこと、やりたいこと――――どちらも特に無い。
強いて言えば、体にへばりつく土と埃っぽさが気にはなった。
戦士は清流を求めて密林を探検することにした。
川はすぐに見つかった。
川の水に身を浸しながら、戦士は考える。
これからどうしようか。これから、何をすべきか。
気まぐれではあるが、久しぶりに身を起こした手前、少しは行動を起こしてみようという気にはなっていた―――これも、気まぐれだが。
今の世界の様子がどうなっているのか、歩いて見て回ってみようか。
目の前に広がるこの雄大な大自然の姿に、死んだはずの心が少しは動かされたから。
なにしろ、これ程の大自然はかつて自分が真っ当に生きていた時代ですらお目にかかったことはなかった。
真っ当に、生きた時代――――今もなお色褪せることのない、輝かしい思い出。
じんわりと、戦士の目に涙が浮かぶ。
戦士はバシャバシャと水で顔を洗った。
歩き続けよう―――――戦士はそう思った。
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