勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
↓ 1- 覧 板 20
700: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 20:02:21.78 ID:uAQKxthS0
ポチャン、と鼻先に落ちた水滴がきっかけだった。
久方ぶりにまぶたを刺激する陽光に、戦士は目を開いた。
すっかり闇に慣れきってしまった瞳はうまく光を感じ取ることが出来ず、視界は白く塗りつぶされてしまっている。
瞳が光に順応するまでの間、戦士はぼんやりと考える。
こうやって思考を巡らせることも、ずいぶんと久しぶりだ。
――――この目が光を捉えるのは、一体何年振りのことだろう。
幾百、幾千、幾万―――はたまた幾億年ぶりなのかもしれない。
長い―――ずっと長い時間を、一人で旅をしてきた。
一人だ。
呪いに侵された我が身は子を成すことが出来なかった。
食物すら拒絶する我が身に、愛する者の種など到底受け入れられるはずもなかった。
一人で―――長い時を、不老不死の呪いを解く方法を探してさ迷い歩いた。
しかし如何なる方法をもってしても肉体は死せず、あらゆる外法に手を出しても五体は無事で――――いつしか、心だけが死んでしまった。
既に遥か昔のことになるが、天変地異が起きて人の世は滅んだ。
それからはじっと目を瞑って眠ることが多くなった。
雨が降ろうと、大地が揺れようと眠り続けた。
砂が被さり、体が土の下に埋まってしまっても、起き上がろうとはしなかった。
当然、息が出来ずに死ぬ。しかしこの身に宿る不死の呪いは魂を無理やりに引き戻す。
そうして延々と繰り返される死と再生の苦悶の果てに、いつしか考えることすらやめてしまった。
758Res/394.23 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20