勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
↓ 1- 覧 板 20
569:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 16:25:14.01 ID:dyU/3Fo20
「何だと!!?」
大声が上がったのはセレモニー後の武の国大会議室だった。
そこには、勇者の要望により世界各国の代表が集められていた。
「一体何を仰るのだ! 勇者殿!!」
泡を吹く勢いで勇者に詰め寄っているのは武の国の大臣だ。
ひどく慌てた様子の大臣とは対照的に、勇者は冷静に先ほど行った各国への通達を繰り返した。
勇者「ですから、これより全ての国において武力の保有を禁ずると申し上げたのです。この世界から魔物は消え、もう人々が武器を持つ意味も無くなった」
勇者「であればもう武器など無用の長物。いやむしろ徒に人の命を奪う害悪。故に、破棄を命じます」
国王「馬鹿な!!」
反論の声を上げたのは誰あろう、勇者の故郷である『始まりの国』の国王だった。
国王「気は確かか勇者! 魔物はいなくなっても悪事を働く盗賊などの犯罪者は依然存在する! 国家が武力をもって治安維持に務めねば、住民の安寧を維持することなど出来ん!!」
勇者「その役目は私が負います。今の私は万里先の事象を見通し、千里の道すら一歩で駆けることが出来る。この世界のどこにおいても、罪を犯した者の前に瞬時に姿を現し、裁きを下すことが可能です」
国王「ば、馬鹿な。そんなことが出来るはずが……」
勇者「疑われるのならここの地下牢を見学に行くとよろしい。戦勝に酔う人々の隙をついて盗みなどの不逞を働こうとした者達を私の手で捕らえております。既に収容するスペースが足りないほどだ。悲しいことにね」
国王「な……」
国王は武王の顔を見た。
武王は苦々しげに頷いてみせる。
国王「し、しかし、軍事力の無い国などというものはそもそも成立しない! 税の徴収などに強制力を持たせていられるのは、あくまで国家の武力が背景にあってこそなのだ!!」
勇者「その程度で成立しなくなる国なら無くなってしまえばよろしい。民の不満を武力で押さえつけていた無能領主をあぶりだすいい機会となるでしょう。例えば善の国などは、きっとこの程度のことで揺らぎはしない」
善王「買い被りが過ぎるぞ。勇者殿」
勇者「そうかな? 罪を犯した者に対する苛烈な罰則。それが私の裁きという形態で存続する以上、あなたの国政には武力の有無はさして影響しないはずだ」
武王「影響があるのは強大な武力で国力を維持していた我が国が最たるものだよ、勇者。お前は我が国の勇壮な兵士達に路頭に迷えと言うのか?」
勇者「逆に聞くがこれからの世界で勇壮な兵士の剣は誰に向かって振るわれるというのだ? 人々を脅かす魔物はもういない。他の国々が一斉に武力を放棄すれば他所に侵略される恐れもない」
勇者「あなたが持つ兵士の強靭な肉体は、これからは畑を耕すことや土地の開発を行うことに使ったらいい。そしてその改革は、決して難しいことではないはずだ」
国王「民は混乱する。そんな大規模な改革を行えば、せっかくお主がもたらしたこの平和も露と消えることになるぞ!!」
勇者「混乱は私が収束する。必要となれば、私が一時的に世界を統一して導く役割として君臨しよう。何しろ、実際に私にはその為の力が備わっている」
勇者のこの言葉に反応したのは善王だった。
ずっと難しい顔で思案していた善王は、抱いていた疑問を勇者に投げかける。
善王「勇者殿。君は罪を犯した者に対する罰則装置になると言ったな。確かに、大魔王を倒した今の君ならば、そんな途方もない芸当も可能なのだろう」
善王「だが、君亡き後の世はどうなる? 君ほどの男が、こんなことにすら思い至らず、短絡的に物を述べるはずがないと様子を伺っていたが……先程の発言、君はもしや……」
勇者「やはり貴方は優秀だ、善王様。私の望む治世には今よりもっと整備された法の存在が必須。貴方にはその制定に存分に手腕を発揮していただきたい」
勇者「ともあれ貴方の疑問に答えよう、善王様。お察しの通りだ。余りに多量の精霊加護が集中したことで、私は人の理を外れた。私に寿命は存在しない。未来永劫に渡り、罪に対する抑止力として存在することが可能だ」
善王「それは想像もできない、したくもない、茨の道のりだ。君は感情ある人間だ。神ではない。己の意に反した決断を迫られることもあろう。それが、どれほど君の心を削り取っていくことか」
勇者「なに、心配には及ばない――――『もう慣れた』さ、そういった類のことは」
758Res/394.23 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20