勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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566:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 16:21:23.61 ID:dyU/3Fo20
武の国は連日、祭りの如き喧騒に包まれた。
何しろ、世界に真の平和が訪れたのだ。
人々は一様に、その顔に笑みを浮かべていた。
感激の涙を流している者さえあった。
酒に顔を赤らめて、陽気に肩を組んで踊る男たちがいる。
「「「世界に平和が訪れた。恐ろしい魔物の王はもういない。一体誰がしてくれた。一体誰が、こんな偉業を成し遂げた」」」
「「「勇者、勇者だ、『伝説の勇者』の息子、勇者様! 親子二代に渡って人類悲願の世界平和を成し遂げた! おお、なんたる献身、なんたる勇気!!」」」
「「「『伝説の勇者』、万歳!! 『伝説の勇者』の息子、万歳!!!!」」」
人々は声高に歌い、勇者の偉業を讃えた。
詩人はこぞって勇者の冒険譚を謳い上げ、勇者は瞬く間に幼子まで憧れるような英雄へと祭り上げられた。
世界中から人々が集まった武の国の盛り上がりは、今、最高潮を迎えていた。
何故なら今宵、大魔王討伐を成し遂げた勇者が遂に民衆の前に姿を現すことになっているからだ。
武の国中央広場は、世界を救った英雄を一目見ようと集まった群衆によって埋め尽くされていた。
広場の北側に用意された舞台上には、武王を始めとした諸国の王が並び、大魔王討伐記念のセレモニーが進められている。
ざわ、と広場の前列から声が上がり、やがてそれは歓声の波となって民衆の最後尾まで到達した。
楽団による演奏と共に、勇者が壇上に姿を現したのだ。
中央広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
勇者はいつもよりは小奇麗にしているものの、華美な衣装は身にまとわず、およそいつもと変わらぬ風体をしていた。
豪華な衣装も準備されてはいたが、どうしても袖を通す気にはなれなかったのだ。
勇者は眼前に広がる人々の姿を―――自分が救った人々の姿を目に納める。
盛り上がる広場の熱気に酔い、やや興奮しすぎの様子ではあるものの、皆その顔に笑みを浮かべていた。
それを、素直に嬉しいと勇者は思った。
ごほん、と勇者が咳払いし、武王が民衆を手で制した。
途端にしん、と広場に静寂が満ちる。
聴衆は皆、勇者の言葉を聞き漏らすまいと、じっと耳を傾けていた。
勇者は一度深々と頭を下げてから、語り始めた。
勇者「今日は、私の口から皆さんに改めてご報告をさせていただきます」
勇者「大魔王は倒れました。もう、獰猛な魔物が皆さんを脅かすことはありません」
歓声が上がった。
人々は口々に勇者の名を連呼し、褒め称えた。
勇者「ありがとうございます。しかし、この平和を手にするまでに多くの苦労がありました。本当に―――沢山の、辛いことがありました」
勇者は目を閉じた。
脳裏には、これまでの旅路が走馬灯のように駆け巡っている。
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