勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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552:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 16:09:15.92 ID:dyU/3Fo20
 勇者が大魔王に肉薄し、剣を振る。
 一度、二度――――三度、四度、五度。
 絶え間なく繰り出される連撃を、大魔王はその腕で打ち払う。
 大魔王の腕は理外の強度を誇り、今の勇者の剣をすら両断されることなく受け止めている。
 衝突、衝突。そのたびに巻き起こる空気の爆裂とそれに伴う轟音。
 大振りになった大魔王の腕をかいくぐり、勇者が懐に入り込む。

大魔王「ぬう!?」

 大魔王は勇者と自分の間に、空間転移魔法・虚空を発動させる。
 だが間に合わない。
 『暗闇』が生じた時にはすでに勇者の剣はその場所を通り抜け、大魔王の体に迫っていた。

大魔王「ぬがぁ!!」

 大魔王は慌てて勇者の剣を右腕で防御する。
 肘のやや下あたりに勇者の剣がめり込んだ。

勇者「はああ!!」

 これを機と見た勇者の全霊の剣。
 いかに強固な大魔王の腕といえども受け止めきれるものではなく、その刃はずぶずぶと肉と骨を裂き進んでいく。
 ズバン! と勇者の剣が振り切られ、大魔王の右腕が宙を舞った。
 勇者は即座に剣を切り返し、続けざまに大魔王の首を狙う。
 ぞくり、と勇者の背に怖気が走った。
 勇者の第六感が危機を告げている。
 よく目を凝らせば、宙を舞う腕に大魔王の体から魔力の糸が伸びていた。
 直後、大魔王の右腕から四方八方に槍のような刃が飛び出した。
 勇者は身をかわし、心臓と頭への直撃はまぬがれたものの、左肩と両足を貫かれてしまう。

勇者「ぬ…ぐ…!!」

 勇者は大魔王から距離をとり、己に刺さった刃を剣で叩き折った。
 大魔王の右腕はもう元の形に戻っており、床に転がっている。
 眼前に立つ大魔王。その腕の切断面からは血液が零れる気配がない。

勇者「その手……義手か。道理で、馬鹿みたいに固いわけだ」

大魔王「ふん。してやったり、と高笑いのひとつでもしてやりたいものだが」

 勇者に一杯食わせたはずの大魔王の表情は渋い。

勇者「『呪文・極大回復』」

 その理由は、先ほどから負ったダメージを瞬く間に治してしまう勇者の治癒呪文にあった。
 今しがた負わせた肩と両足の傷も、綺麗さっぱりと無くなってしまう。
 その様子に、大魔王は歯噛みした。

大魔王(……これ程とは、な)

 攻撃力や防御力、或いは魔力―――両者の単純な戦闘能力は互角といっていい。
 しかしながらその力を活かす戦闘技術において、勇者と大魔王の間には雲泥の差があった。
 それは常に格上を相手にしてきた勇者と、常に君臨してきた大魔王との経験値の差。
 大魔王は、これ程実力が伯仲した相手との戦いになると、己の空間魔法が全く戦闘の役に立たなくなることを知った。
 ひとつの暗闇を生み出す間に、10も20も攻撃が飛んでくるのだ。それだけの速度差があっては、空間魔法を攻撃や防御に利用できるはずもない。
 大魔王ははっきりと自覚した。

大魔王(認めざるをえまい……勇者の力は、すでに俺を上回っている……!!)





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