勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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549:名無しNIPPER[sage saga]
2017/06/25(日) 16:06:57.96 ID:dyU/3Fo20
爆ぜる衝撃が戦士の頬を撫でた。
勇者の体を中心に荒れ狂う嵐が『大魔王の間』の広大な空間を切り裂いていく。
勇者「『呪文・極大烈風』」
勇者の魔力によって生み出された風の塊は、まるでそれ自身が意思を持つかのように唸りをあげ、その様相は風でかたどられた龍の姿を幻視させた。
荒れ狂う暴風の龍は勇者の指さす先、大魔王へと襲いかかる。
大魔王「風刃(ふうじん)」
大魔王がその腕を振るうとまるで巨大な獣の爪に引き裂かれたように風の龍の体は千切れ飛んだ。
勇者「『呪文・極大火炎』」
間髪入れずに勇者は次なる呪文を紡ぐ。
極大火炎の名のもとに生み出された火球はまるで太陽が地上に顕現したかのようで、並の者ならば直撃を受けるまでもなくただその場に居るだけで焼け溶けていただろう。
大魔王「虚空(こくう)」
大魔王の手から放たれた暗闇が極大火炎を飲み込んだ。
火球の放つ光と熱に照らされていた『大魔王の間』に一瞬の静寂が訪れる。
勇者「『呪文・――――極大雷撃』!!!!」
轟音と烈光が静寂を引き裂いた。
突如現れ瞬時に部屋全体を蹂躙した雷光は、流石の大魔王といえども完全に躱しきることは叶わなかった。
端が焼け焦げたマントを払い、大魔王は勇者を睨め付ける。
勇者と大魔王、二人の戦いに戦士はただただ圧倒されていた。
勇者の放つ魔法は人知を超えた威力で、大魔王城が今も形を保っていることが奇跡に思えるほどだ。
しかしそれを、大魔王は事も無げにいなしている。
がり、と戦士は奥歯を強く噛みしめる。
レベルの違いを痛感した。
この二人の戦いに、自分の力量では割って入ることは叶わない。
これはもはや――――神々の領域の戦いだ。
勇者「戦士。大魔王の相手は俺に任せて、君は先に城を離れるんだ」
いつの間にかすぐ傍まで戻ってきていた勇者の言葉に、しかし戦士は首を振った。
戦士「いやだ。誰がお前を一人で戦わせるものか。私はずっとお前の傍にいる」
勇者は困ったような笑いを見せた。
戦士とてわかっている。
この局面において、自分はもうただの足手まといにしかならない。
それでも、今の勇者を。
父をその手にかけ、深く―――とても深く傷心しているだろう勇者を一人にすることは耐え難かった。
――――それでも。
戦士(私がここにいれば、巻き込むことを恐れて勇者は本気を出せない。それに、大魔王のあの得体のしれない術に私が捕まれば、人質として利用されてしまう可能性すらある)
そんな戦況も、戦士にはよく理解できていた。
嫌だ嫌だと喚く自分の感情に蓋をする。
たまらず涙が込み上げてきた。
弱い自分に、この一番大事な時に、大切な人の傍に立てない自分の弱さにはらわたが煮えくり返る思いだった。
ぐっ、と戦士は爆発しそうになる感情をこらえ、こぼれそうになっていた涙をぬぐう。
戦士「勇者、約束しろ。―――――必ず、絶対に戻ってこい」
勇者「ああ。わかったよ。約束する。必ず戻るよ、戦士」
戦士はその場を立ち去ろうとして踏みとどまり、床に転がっていた『伝説の勇者』の首を胸に抱え上げて駆け出した。
勇者は戦士が『大魔王の間』から出て行ったことを横目で確認し、大魔王へと向き直る。
勇者「随分と素直に行かせるんだな」
大魔王「お前を刺激するような真似はせんよ。俺たちにはまだ交渉の余地がある。そうだろう?」
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