勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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423:名無しNIPPER[saga]
2016/11/06(日) 01:32:24.70 ID:ZSsiH8ra0
伝説の勇者「が、は……! ば、か…な……これは…一体どういう……」
仰向けに崩れ落ちた『伝説の勇者』は必死で首を持ちあげ、自身の妻であった女性に目を向ける。
その目の前で、その女性の体から煙が噴き出し、やがて煙の中から勇者が姿を現した。
『変化の杖』。
持って念じるだけで、イメージした人物に化けることが出来るマジックアイテム。
何しろ自分の母親だ。その姿を寸分違わずイメージすることは容易であった。
伝説の勇者「勇者…!! き、さま……何という……!!」
伝説の勇者は激高し、勇者に掴みかかろうともがくが、体はちっとも言う事を聞かず寝返りを打つように僅かに身じろぎ出来ただけだった。
伝説の勇者「し、死ぬのか……俺は、ここで死ぬのか……!?」
どくどくと『伝説の勇者』の胸の傷からは血が溢れ続けている。
どんどんと自分の体が冷たくなっていくのを、『伝説の勇者』は自覚した。
伝説の勇者「あ、あぁ…あぁぁああああぁぁぁぁあああああ!!!!!! い、嫌だ!! 怖い!! 死にたくないぃぃ…!!」
戦士はぎゅう、と己の胸の辺りで拳を握りしめた。
勇者はあくまで無表情で己の父の姿を見下ろしている。
二人とも、今『伝説の勇者』が味わっている死の感覚を知っている。
それがどれ程の恐怖なのか、勇者も戦士も身をもって知っているのだ。
伝説の勇者「ゆ、勇者……頼む……助けてくれ……」
青白くなった顔で、『伝説の勇者』は途切れがちにそう口にした。
ぴくり、と勇者の指が震える。
伝説の勇者「もうお前の邪魔はしない……共に大魔王に立ち向かうと誓う……だからどうか……助けてくれ……」
今まさに死にゆく父の、必死の命乞いを目の前にして、遂に勇者の感情が揺れた。
眉根にはっきりと皺を寄せ、勇者の顔には苦渋の色がありありと浮かびでている。
伝説の勇者「頼む……どう、か……勇、者………」
勇者「う…あ…」
勇者は思わずその手のひらを父に向かって開いた。
あとは回復のための呪文を唱えてやれば、父は一命を取り留めることが出来るだろう。
しかし勇者は開いた手を閉じた。
そして代わりに精霊剣・湖月を手に取り、父に向かって高々と掲げて見せた。
せめて苦しみを長引かせることなく一瞬で――――そう考えた上での勇者の行動であった。
そんな勇者の姿に気付いた『伝説の勇者』の表情は、まさしく絶望と、そう表するに相応しいものだった。
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