勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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329:名無しNIPPER[saga]
2016/08/06(土) 16:34:30.03 ID:AsT68X2i0
大魔王「『異空間魔術』と、俺はそう呼んでいる。どうも俺の一族はこの手の術に長けていてな。お前達の世界と魔界を繋げられたのもこの能力があった故だ。今のように離れた空間を繋ぐトンネルを設けたりと、用途は様々よ」

 ゆっくりと立ち上がった大魔王の周囲に、次々と暗闇が生まれ始めた。
 その中には、奥に明らかに大魔王城とは違う野外の景色が見て取れるものもある。
 勇者は講釈する大魔王に構わず、戦士に駆け寄った。

戦士「う…ぐ…」

勇者「良かった…急所は外れてる…! 『呪文・大回復』!!」

 勇者の放つ癒しの魔力の輝きに包まれて、戦士は意識を取り戻す。
 立ち上がった戦士の姿を見て、大魔王は感嘆の声を漏らした。

大魔王「ほぉぉ……即死しておらぬのか。これは流石だと言うしかない。やはりお前達と直接事を構えるのは得策ではないな」

勇者「逃げるのか!!」

 大魔王の言葉に反応し、勇者は吼えた。
 そんな勇者に対し、大魔王はあくまで鷹揚に頷く。

大魔王「うむ、逃げる。そこな娘、確実に死角から剣を放ってやったのに、剣先がその身に触れた瞬間に身を躱し、即死を免れおった。恐るべき反応よ。その娘が躱しきれぬお前の剣の鋭さも侮りがたい」

大魔王「実際戦えば、まあ俺が勝つだろう。しかし、お前達が勝つ可能性もゼロではない。だから逃げる。俺は万が一にもここで死ぬわけにはいかんのだ」

戦士「私達がお前を易々と見逃すと思うか!!」

大魔王「それを可能にするのが俺の能力【ちから】よ」

 大魔王の言葉と同時、一際大きな暗闇が大魔王の頭上に生じた。
 そしてその暗闇から、足、膝、腰―――と姿を現し、何者かがゆっくりとその場に降り立つ。
 その正体に思い至った勇者と戦士は驚愕で足を止めてしまっていた。

大魔王「このように離れた地点に居る者を召喚することも出来る」

 大魔王を守護するように、勇者達と大魔王の間に立ち塞がったのは、虚ろな目をした銀髪の魔族だった。
 大魔王と同様に、額から伸びた二本の角と、青みがかった肌の色以外に、一見して人間の容姿と大差がある部分は見受けられない。
 その魔族の顔に、勇者と戦士は見覚えがあった。
 以前、魔王討伐に成功した武の国兵士長達が持ち帰ってきた魔王の首。
 その顔が、今勇者達の目の前にいる魔族と非常によく似ている気がする。
 いや、似ているというより、これはもはや、完全に同一の――――――――――

大魔王「お察しの通りよ。こいつはお前達が魔王と呼んでいた者に相違ない」

 勇者達の心を見透かしたように、大魔王は笑って言った。

大魔王「つまるところ三人目となる、魔王」

勇者「魔王………さ、三人目……?」

大魔王「全滅することが目的の軍の指揮を、新天地を夢見る魔物共の誰かに任せると思うか? かといって俺の賛同者に犠牲を強いるのもしのびない。故に俺はコレを造った。『魔王』という名の人造生命体。俺の意思を媒介するための操り人形を」

戦士「ば、馬鹿な……」

勇者「俺達が長年追いかけていた魔王という存在が……複製可能な作り物だった……?」

 次々と判明する想像の斜め上をいく事実に、勇者は眩暈すら覚えた。
 しかし同時に、どこかで勇者は納得もしていた。
 勇者は、自身にとっては初の対峙となる魔王の姿を見て、思う。

勇者(きっと、親父の心を折ったのは―――――今の、この光景だ)




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