勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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328:名無しNIPPER[saga]
2016/08/06(土) 16:33:54.06 ID:AsT68X2i0
勇者「なん…だと…?」
大魔王「俺達のような呪われた命が世界と折り合いをつけて生きていくためには、無秩序な繁殖を抑え、個体数を適正に管理することが必須だ。無論、食事に関してもある程度の縛りを設ける必要がある」
大魔王「しかしこれは生存本能に意思の力で無理やり蓋をするようなものだ。叶うのは、俺や試験都市フィルストに居住している者共のような、一部の知性が高い種族に限られるだろう。いわんや、あの無秩序な獣共にそのような我慢が出来るはずもない」
大魔王「だから、強制的に『間引き』を行う必要があった」
勇者「……その為に、そんな事の為だけに、俺達の世界に攻め入ったと?」
大魔王「そうだ」
勇者は勢いよくその場に立ちあがり、大魔王の顔を指差した。
勇者「ふざけるな!! そんなもんはテメエの手で勝手にやりやがれ!! いちいち俺達の世界を巻き込んでんじゃねえよ!!」
大魔王「俺自らの手で直接間引きを行えば当然『大魔王』としての威光は地に落ちる。そうなれば俺の言葉に耳を傾ける者などいなくなる。それはならん。間引き後の魔界改革にこそ『大魔王』としての立場が必要だ。俺は『大魔王』の立場を、統率力を保ちつつ、事を成さねばならなかった」
勇者「だから……そんなのはテメエの勝手な都合だろうが!!」
大魔王「許してくれとは言わん。だがどうか見逃してくれ。あと一度の遠征があれば、魔物の数は俺の想定する適正値に落ち着く。あとたった一回なのだ。だから、頼む。なあ、勇者よ」
大魔王「なぁに、これまで通りきちんとそちらに配慮して攻め入るので、間違ってもお前達の負けは無い。まして、お前とそこの娘が戦列に加わるとなれば」
勇者「待て……待て待て……! なんだと? 今何て言った? 配慮? 配慮して攻めていたと、今そう言ったのか?」
大魔王「そうだ。まさしくそう言った。余りにも魔王軍の用兵は稚拙だと、これまでにそう感じたことは無かったか? 一つ所に戦力を集中せず、世界各地を散発的に攻める様子に違和感を覚えなかったか? 所詮は獣が為すことだと、見縊っていたか?」
大魔王「調整していたのだ、この俺が。間違ってもお前たちを滅ぼしてしまうことが無いように。適切にお前達が勝利できるように。微に入り細に穿ち、丹念に、念入りに」
勇者は震える手でくしゃりと己の前髪を握りしめた。
勇者「は…はは……なんだよ………結局俺達は、お前の手のひらの上で転がされてただけだったってのか……?」
勇者の脳裏に、これまでの旅路で経た数々の困難が急速に思い返される。
勇者「あ? じゃあなんだ? それならむしろ、俺はお前にお礼を言わなきゃいけないじゃないか。手加減してくれてありがとうって。俺はお前のおかげで親父のような英雄になれましたって」
言い終わると同時に、勇者は大魔王に向かって駆けた。
その手には精霊剣・湖月を固く握りしめている。
勇者「―――――――ざっけんなコラァッ!!!!!」
大魔王の心臓目掛けて突き出された勇者の剣先は、突如大魔王の前に現れた暗闇に飲まれて消えた。
ぽっかり空中に空いた穴に吸い込まれた勇者の剣だが、暗闇の先で確かに肉を突き刺す感触を勇者に伝える。
戦士「か……は……」
戦士の背後に突然現れた暗闇から勇者の剣が突き出していた。
その剣先が戦士の胸を背中から貫いている。
勇者「せ……」
勇者は慌てて剣を引き抜いた。
ずるりと剣の抜けた戦士の体がゆっくりとその場に崩れ落ちる。
勇者「戦士ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!!」
勇者の絶叫が『大魔王の間』に響き渡った。
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