勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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285:名無しNIPPER[saga]
2016/06/26(日) 19:33:05.09 ID:Trw4ei5x0
試験都市フィルスト。
その一角にある、勇者の生家を模した家――――その物置をごそごそと漁る者がいた。
かつて『伝説の勇者』として一度は世界を救い、大魔王に挑んだ者―――勇者の父である。
勇者の父は物置の奥で目当ての物を見つけ出すと、それを引っ張り出して物置から姿を現した。
「あなた……」
その背中に、魔族の女性が声をかける。
魔族の女性は勇者の父が手に持っている物の正体に気が付くと、「あぁ…」と小さく呻きを漏らした。
「征くのですね?」
「ああ」
勇者の父は短く答えた。
勇者の父は、脳裏に先ほどもう一度自分を訪ねてきた己の息子の姿を思い浮かべる。
『アンタの代わりに大魔王をやっつけてやる。だから大魔王の居場所を教えろ』
大魔王の恐ろしさをどんなに説いても、勇者は一切聞く耳を持たなかった。
『ごちゃごちゃ言うな。テメエは俺に大魔王の居場所を伝えるだけでいいんだ。あとはそこの紛い物の家で震えてろ』
観念して大魔王の居場所を伝えると、勇者はすぐに旅立っていった。
その傍らには、かつての愛弟子である戦士の姿もあった。
そして勇者の父は決心した。
だから、物置からこれを引っ張り出してきたのだ。
かつて己の愛用していた神秘の武器――――『伝説の剣』を。
「だけど、出来ますか? あの人に剣を向けることが」
魔族の女性の問いに、勇者の父は重く頷いた。
「正直に言うと、怖い。あいつに剣を向けると考えただけで手が震えてくる。背筋に寒いものが通り抜ける。だけど――――――」
勇者の父は息を大きく吸って、ゆっくりと吐き出してから、言った。
「やらなくちゃならないんだ―――――あいつらを死なせる訳には、いかないからな」
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