勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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268:名無しNIPPER[sage saga]
2016/06/26(日) 19:18:33.15 ID:Trw4ei5x0
勇者(……あれ?)

 ふと気付けば、勇者は部屋の中に立っていた。
 石造りの床に赤を基調とした絨毯が敷き詰められ、高さ2m超の本棚が列になって並んでいる。
 どうやらここは図書室のようだった。
 しかも、そこは勇者にとってとても見覚えのある所だった。

勇者(ここは……故郷の、『始まりの国』の……図書室……か…?)

 部屋の中央付近には長机と椅子が置かれており、読書の為のスペースとなっている。
 そちらに目を向けると小さな男の子が本を開いていた。
 本のタイトルは『大陸冒険録』。かつて勇者たちの住む大陸を一周した冒険家が記した冒険譚で、幼い頃から勇者が愛読していたものだ。
 何度も開かれて手垢まみれになったその本を、男の子はふんふんと鼻を鳴らしながら目を輝かせて読みふけっている。

『今日こそ私と勝負してもらうぞ!』

 凛とした声が図書室に響く。
 美しい金髪を肩の所で切り揃えた、可愛らしい女の子が男の子に向かって仁王立ちしていた。
 男の子はうへぇ、と心底めんどくさそうな顔をする。

『嫌だよ。何度も言ってるじゃないか。痛いのは嫌いなんだ、僕』

 そう言って、男の子は閉じた本を脇に抱えて椅子から降りた。
 そのまま、女の子に背を向けてそそくさと図書室を出ていく。

『あ、待て! 男らしくないぞ! それでもお前は――――』

 女の子も男の子の後を追って図書室を出て行った。
 シン、と部屋の中に静寂が満ちる。
 一人残された勇者は、何とはなしに、男の子が座っていた机をそっと撫でた。




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