勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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170:名無しNIPPER[saga]
2016/04/17(日) 11:25:37.14 ID:GzXa1Wz40
パーティーも終わって、翌日。
武の国の会議室には各国の代表とその護衛が再び集められていた。
勇者は会議室に集まった皆の顔をゆっくりと見回し、言った。
勇者「今回皆様にこうしてお集まりいただいたのは今後の方針について提案をさせていただくためです」
武王「今後の方針……ふむ、魔王を倒したとはいえ、魔界には大魔王が控えている。その大魔王打倒の為の対策をここで練るという訳だな?」
勇者「……いえ、少し違います」
勇者は首を横に振って武王の言葉を否定した。
俄かに会議室がざわめき始める。
勇者「大魔王に対する対策、という意味では間違っておりません。しかし、必ずしも大魔王を打倒しなくともこの世界に平和をもたらすことが出来るというのが私の考えです」
善王「具体的には?」
秩序を重んじる若き王、善王が勇者の話の先を促した。
勇者は頷く。
勇者「魔物達は魔界というこの世界とは異なる別の世界から来ているということは既に皆さんご承知の通りかと思います。ならば今後魔物の侵略を防ぐのは簡単な話で、要はその通り道に蓋をしてしまえばいいわけです」
勇者「その通り道というのが、魔王城です。魔物達は皆、魔王城を通じてこの世界に現れていました。魔王城の容量からは有り得ない数の魔物が次々と魔王城から現れたのも、これが理由です」
勇者「今回我々は魔王城の制圧に成功し、魔物の出現を防ぐことが出来ている。あとはこの状況を継続していけばいい」
勇者「具体的には現在魔大陸を覆っている『宝術』の結界を維持するために堅牢な結界陣を魔王城周りに敷設する。そして魔王城の奥に発見された『魔界への出入り口と思しき泉』には常に見張りを置く。見張りと軍との通信手段を整備し、有事の際には即座に戦力をそこに投入できるようにする」
勇者「要点を挙げるなら、こんな所でしょうか。折角ですので、今回大まかな役割の分担と費用負担の割合まで決めてしまいたいのですが」
武王「待て待て待て。勇者、ちょっと待て」
淡々と議事を進行しようとする勇者に待ったをかけたのは武王だ。
武王「何故そんな面倒なことをしなくちゃならん。魔界への入口が判明しているのならやることはひとつだろう。すなわち、魔界への突貫! これまでただひたすらに受け身になって耐え凌いだ我々が攻勢に転じる、今がまさに好機であろう!!」
兵士長「然り。魔王を討伐したことで兵の士気もこの上なく高まっております。大魔王討伐を掲げれば、この勢いは決して衰えることは無いでしょう」
やはり魔王討伐の中心的役割を担ったためか、武の国の面々には自信が漲っている。
しかし勇者は二人の熱意を受けてなお、首を横に振った。
勇者「いえ、いいえ。確かに兵達の士気はこの上なく軒昂でありましょう。しかしそれでも人類の力は大魔王には及ばない」
武王「そんなことはやってみなくてはわからん。勇者たるお主がそんなに臆病でなんとする」
勇者「いいえ、わかります。何故なら―――魔界では『宝術』が使えない」
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