勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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166:名無しNIPPER[sage]
2016/04/17(日) 11:20:07.72 ID:GzXa1Wz40
 勇者は頭を振って思考を中断し、会場内の様子を眺める。

勇者「みんな笑顔で、楽しそうだ。良かったよ、本当に……」

 勇者は一人そう呟いて、グラスを傾けた。
 本来であれば魔王討伐の立役者である勇者がこのように一人で落ち着ける時間など取れるはずもない。
 共に戦っていた兵士達、英雄に顔を売ろうとする貴族たち、何とか寵愛を受けようと躍起になる娘たち、そんな輩がひっきりなしに勇者の元を訪れるはずだ。
 先ほどまで勇者はそんな連中の相手をしていたことはしていた。だが、その数は魔王討伐を成し遂げた英雄に対するものとしては明らかに少なかった。
 疲れを残す勇者にとっては幸いであったのだが―――『魔王を倒した英雄』としての名声は、実際に魔王の首を持ち帰った武の国兵士長を始めとした魔王城突入班に贈られたのだ。
 勇者の立場は、あくまで最終作戦立案者。つまりは軍師のような立ち位置だ。
 安全地帯で作戦指揮を執っていたとなれば、実際に命を賭し、魔王と対決した英雄に比べ、民衆から贈られる賛美の声も雲泥の差というわけだ。
 作戦決行のあの日―――勇者が実際に何を為したのかを知る者は少ない。
 だけど勇者に不満は無かった。むしろそれで良かったとすら思っていた。

勇者(どうせ、俺に対する賛辞の声は全部「流石、『伝説の勇者』の息子だ」になる……そんなん言われても何か微妙な気持ちになるし、これで良かったんだ)

勇者(ただ、まあ……母さんはその「流石、『伝説の勇者』の息子だ」が欲しかったわけで……この結果に納得してくれないかもしれないけど…それ考えるとちょっとめんどくさいけど……でも、しょうがねえよな……)

 勇者の視線の先では今も人の群れに揉みくちゃにされている武の国兵士長達の姿がある。
 しばしぼんやりとその様子を眺めていた勇者だったが、くいくいと袖を引っ張られる感覚に我に返った。
 引っ張られた方を振り向くと、金髪の美女が勇者の袖をつまんでいた。
 勇者はぼぅとして思わず女性の姿をまじまじと観察してしまう。
 女性は純白のドレスを身に纏っていた。
 ドレスは肩から胸元まで露出している形状で、胸の下から腰元まで布地がぎゅっと絞られてからふわりとスカートが広がっている。
 そのため上半身の美しい体のラインが露わになっているのだが、純白のドレスの所々に散りばめられた薄桃色の花模様によって、下品さよりむしろ清純さが演出されている。
 肩甲骨の辺りまで伸びた金髪は思わず指を通したくなってしまうほどサラリと流れていて、女性の鎖骨の間では穏やかな光を放つ宝石がネックレスに吊られて揺れていた。

戦士「……なんだその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は」

 金髪の女性の正体は戦士であった。

戦士「……退屈なら一緒にここを抜け出さないか? 正直、言い寄ってくる男が多すぎて、辟易しているんだ」





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