勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
↓ 1- 覧 板 20
12:名無しNIPPER[saga]
2016/01/31(日) 21:42:50.64 ID:zBP9Ql630
強くなったつもりだった。
多くの敵を倒し、沢山の神殿を解放して、出来る限り力をつけたつもりだった。
実感はある。
獣王との決着をつけたあの日の時点と比較しても、あの世界樹の森での体験を経て自分の力は跳ね上がっている。
獣王にも到底敵わないと武の国諸侯の前で嘯いてはみたものの、その実、やりようによっては独力で打倒できるのではと思えるほどには自身に自信をつけていた。
だけど―――――届かない。
勇者「ぐ…はっ、はぁ……! ぜぇ…ぜぇ…!」
地面に膝をつき、剣を杖として己の体を支えながら、勇者は必死で呼吸を整える。
相対する騎士は追撃を加えるでもなくそんな勇者をただ見下ろしていた。
騎士「どうした? もう終わりか?」
勇者「…まだ…まだぁ……!」
乾いて貼りついた喉にごくりと無理やり唾液を通し、勇者は立ち上がり剣を構える。
騎士「はは! そうこなくっちゃなぁ!!」
その途端に、騎士は嬉々として勇者に向かって突っ込んだ。
騎士は精霊剣・湖月を横殴りに振り回す。
勇者は真打・夜桜をもってそれに応じる。
騎士は片手。勇者は両手だ。
なのに押し負けたのは勇者の方だった。
ギャリン、と音を立てて振り切られた騎士の剣に押された勇者の剣は流れ、勇者は無防備な体を晒してしまう。
そこを騎士に蹴りこまれた。
勇者「げう…!」
腹部にめり込んだ騎士の足に押され、勇者の体が後方に吹っ飛ぶ。
ダン、と木の幹で背中を強打した。
勇者「が、は…!」
勇者の体はそこで止まったものの、衝撃でへし折れた木はめきめきと音を立てて傾いでいく。
苦痛をぐっと飲みこみ、勇者は顔を上げる。
騎士が眼前に迫って来ていた。
勇者「う、お…!!」
騎士「そらそらそらぁ!!」
防御、防御、防御―――――繰り出される連撃を勇者はひたすらに耐え凌ぐ。
これまでの経験で培われてきた勇者の防御技術は一級品だ。
ひとたび防御に徹すれば、どんなに格上を相手にしても打ち破られたことはない。
かの獣王の猛攻をすら、勇者は凌ぎきってみせた。
なのに―――!
騎士「ほらまた隙が空いたぁ!!」
勇者の剣をすり抜け、騎士の剣の切っ先が勇者の体に触れる。
獣王以上の威力で、獣王以上の速度で、確かな技術を持って繰り出される連撃は、勇者の防御を容易く潜り抜けた。
勇者「うおああああああ!!!!」
無我夢中で身を捩り、勇者は騎士の剣を躱す。
浅く裂かれた勇者の胸元からどろりと血が零れた。
勇者「ぐ……ちっくしょお!!」
勇者は地面を蹴ってその場を離れ、騎士から大きく距離を取る。
追撃に移らんと身を屈める騎士に向かって勇者は指をさした。
勇者「呪文・大烈風!!!!」
勇者の指先から生まれた風の塊が騎士に向かって突っ込んでいく。
木々を薙ぎ倒し、まともに当たれば竜の尾撃すら打ち逸らすその威力。
騎士「うざってえ!!!!」
騎士が剣を振る。
その余りの速度に生まれた衝撃が、迫る風の塊と激突した。
相殺し、霧散する勇者の風の呪文。
――――剣のたった一振りで、勇者の呪文は無効化されてしまった。
勇者「くっ…」
わかってはいた。
わかっていたつもりだった。
だけど――――こんなにも遠いのか
758Res/394.23 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20