女神
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50:名無しNIPPER[saga]
2015/12/23(水) 20:37:44.05 ID:Xae/YECko

 日が暮れかかった頃、街路灯の灯りにほのかに照らされた自宅のドアの鍵をまわして中
に入ると、家の中には全く照明が灯っていなかった。両親がいないのはいつもどおりなの
だけど、今日は麻衣もまだ帰って来ていないらしい。いつもなら妹と一緒に帰りに買い物
して、帰宅後妹が夕飯を作るんだけど、今日は麻衣を無視して勝手に帰ってきてしまった。

 俺は今日は本気で怒っている。まず二見の件については、文句を言われるようなやまし
いことは少しもない。二見の弁当をご馳走になったのだって、麻衣が俺に弁当を渡さない
と決めた後のことだ。それに仮に何かやましい気持ちがあったとしても、少なくとも夕也
といい雰囲気の有希にそれを咎められる筋合いはない。いくらあいつが麻衣のことを心配
しているにしても、ここまで俺と麻衣の関係に踏み込む権利なんかないのだ。

 おまえは夕也と仲良くしてりゃいいじゃんか。何で俺と妹の仲に口を挟むんだ。俺はそ
う思った。人の気持ちも知らないで。

 あと麻衣も麻衣だ。どんな相談を有希にしたんだか知らねえけど、あいつは、朝俺の分
の弁当も用意してたのだ。それを何だ。有希の口車に乗せられたんだとしても、俺は下手
をすれば昼食抜きになるところだったのだ。今日は妹の夕飯なんか意地でも食いたくない
から、カップラーメンでも食ってすぐ寝てしまおう。俺はそう思ったけど、キッチンを探
しても食えそうなものは見つからない。こういうときに限ってカップラーメンとか冷凍食
品とかインスタント食品とかが何もない。

 今からコンビニに行こうか。いや、面倒だし妹と出合ったら嫌だ。もう寝ちゃおうか。

 俺はそう思った。幸い昼間に二見の弁当をたくさんご馳走になったからそんなに腹は減
ってない。麻衣と顔を会わせるのも面倒だしそうしよう。俺はシャワーを浴びてもう寝ようと思った。



 深夜に何か物音がして、俺は目が覚めた。せっかく空きっ腹を誤魔化して眠れたのに。
いったい何の音だろう。不審に思った俺が部屋の灯りをつけると、麻衣が俺の部屋のベッ
ドの脇に体育座りで俯いていた。

「麻衣? おまえ俺の部屋に座りこんで何してるんだよ」

「めん」

「ああ? 聞こえねえよ。何でおまえが俺の部屋に夜中に座りこんでんのかって聞いてるんだよ」

「ごめん。お兄ちゃん・・・・・・今日はごめんなさい」

「おまえ泣いてるの?」

 いったい何だ。

「ごめんなさい、お兄ちゃん。今日お腹空いたでしょ。あたしが悪かったの」

 俺は麻衣に何と答えていいのかわからなかった。

「今日ずっと何も食べてないんでしょ?」

「食ってねえけど」

「ごめん」

「とにかく泣き止めよ」

「うん」

「で? 何で今日俺と昼飯食わなかったの?」

「お兄ちゃんが」

「ああ?」

「お兄ちゃんがいい気になって浮気とかしてそうだから懲らしめるって」

「いったい何の話?」

「朝の電車でお姉ちゃんにそう言われたの。少し思い知らせてやった方がいいよって」

 やっぱり有希の差し金か。

「それで?」

「お昼もお兄ちゃんを誘わないで食べようって。寂しく学食で一人で食事させれば少しは
懲りるよってお姉ちゃんが」


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