女神
1- 20
382:名無しNIPPER[saga]
2016/10/12(水) 23:45:33.01 ID:am0+7R9Jo

 麻衣ちゃんの顔は青く、華奢な身体はショックに震えてたけれど、彼女はやはり真っ直
ぐ私たちの方を見ていた。

「誤解って何? お姉ちゃんと先輩はあたしに隠れてこそこそこんなところで会ってたん
でしょ」

 麻衣ちゃんは会長の方を見た。

「最近は生徒会の活動があるからあたしとはあまり会えないって言ってたよね? 生徒会
ってこんなところで活動してるんだ」

 麻衣ちゃんの詰問に会長は俯いてしまった。これはまずい。これでは麻衣ちゃんの疑惑
を認めているような態度ではないか。案の定、麻衣ちゃんはそこで黙ってしまい、自分か
ら目を逸らした会長の姿を凍りついたように眺めていた。 でも会長の気持ちもよくわか
った。会長が私と浮気をしているのではないかという誤解を解くために、麻衣ちゃんに真
実を伝えるという選択肢は会長にはなかっただろうから。

 そもそも、二見さんと麻人を襲った出来事は会長にとっては人ごとだと、麻衣ちゃんは
考えているはずだった。そんな麻衣ちゃんに対して今回の出来事の謎を解くために会長と
私が共闘していることを説明したって、彼女に理解してもらえるわけがない。

 麻衣ちゃんにそれを理解してもらうためには、最低限二つの秘密を明かす必要があった。
一つは中学時代に会長と二見さんは恋人同士だったということ、もう一つは会長が麻衣ち
ゃんに黙って二見さんの女神行為を鈴木先生に通報したということだった。

 そしてそれらの事実を麻衣ちゃんに知られることは、会長には耐え難いことだっただろ
う。

 かといってこのまま沈黙していれば麻衣ちゃんの疑惑を追認するようなものだった。私
としてはここに至ってはいっそ全てを麻衣ちゃんに打ち明け、誤解を解き、そして麻人の
ために始めたこの謎解きに、麻衣ちゃんにも加わって欲しいと思ったのだった。

 でも、それは私の一存で出来ることではなかったし、そして、この場で会長を説得する
わけにもいかなかった。それに当事者の麻人が何が起きているのかわからないという表情
で私たちを見ているということもあった。

 もう仕方がない。心が重かったけど私は何とか適当な嘘で麻衣ちゃんを宥めることにした。

「ちょっと落ち着いてよ」
 私は努めて冷静に麻衣ちゃんに話しかけた。麻衣ちゃんは会長から目を離し、私の方を
見たけれど、やはりその視線は私を見るというよりは私を睨んでいるという方に近かった。

「本当に生徒会っていうか学園祭の実行委員会の打ち合わせをしてただけだよ。私が麻衣
ちゃんの彼氏を奪うわけないでしょ」

 とりあえずそう言って麻衣ちゃんの反応を待った。会長を麻衣ちゃんから奪う意図なん
て私にはなかったから、少なくともその部分だけは真実だった。

「・・・・・・あたしからお兄ちゃんを奪おうとしたくせに」

 麻衣ちゃんが低い声で言った。

「え?」

「それでお兄ちゃんが二見先輩に夢中でお姉ちゃんに振り向いてくれなかったからといっ
て、今度はあたしから先輩を奪って行く気なの?」

「ちょっと待って。あんた何言って」

「お姉ちゃん、先輩に告白されて断ったんでしょ? その時はお兄ちゃんのことが好きだ
ったんだよね」

 妹ちゃんの誤解を解こうとしていた私だったけど、妹ちゃんのその言葉は別に誤解では
なかった。

「そうだよ」

 私は言った。「それは本当だよ。でもあんたから先輩を奪おうなんて思ったことは一度
もないよ」

「じゃあ何でお姉ちゃんと先輩が休みの日にこんなところで一緒にいるのよ。打ちあわせ
なんて学校で、生徒会室で大勢でするものでしょ」

 それも正論だった。

 何でこんなことになるのだろう。私は、私と会長は二見さんと麻人を誰が何のために陥
れたかを探ろうとしていただけなのに。そして麻衣ちゃんが理解さえしてくれれば、その
こと自体は麻衣ちゃんだって反対するようなことではないのだ。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice