女神
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339:名無しNIPPER[saga]
2016/08/11(木) 23:50:55.65 ID:VfUpLYzMo

「あれ麻衣じゃん」

 麻人は少しだけ驚いたように言った。

「一緒にいるの誰だろうな」

「三年生の石井生徒会長だよ」

 私は麻人の表情を気にしながら言った。

「何か手繋いでるじゃん。会長って妹の彼氏なのかな」

 麻人は驚いてはいるようだけど傷付いていたり反感を持っている様子はなかった。私は
とっさに自分の知っている情報を麻人に伝えた。それは多分真実だったし。

「先輩ってパソ部の部長もしているんだけど・・・・・。麻衣妹ちゃんがパソ部に入部してか
ら、あの二人って仲良くなったみたい」

「麻衣って三年生と付き合ってるのか」

 麻人が言った。

「だから最近朝早くでかけたり夜遅かったりしたのかな」

「そうかもしれないね」

 私は答えた。

「あいつがねえ。あいつ、俺に依存しまくりだったのにな」

 麻人はその瞬間だけ二見さんのことを忘れたように、優しい微笑みを浮かべていた。彼
は自分の妹に初めて彼氏ができたことを祝福していたのだ。自らはこんな辛い状況にあっ
たのに。

 その時どういうわけか私は涙を浮かべた。私たちはこれまで麻衣ちゃんの両親の代わり
だったのだ。その私たちの自慢の娘が堂々と彼氏に寄り添って歩いている。

 そうだ。このことだけは祝福してあげなければいけないのだ。私の思考は今まで会長の
告白とか浅井副会長の嫉妬とかに囚われすぎていたのかもしれない。麻人と二見さんとの
ことには関係なく、今本当に純粋に幸せなカップルが誕生していたのかもしれないのだ。

「こう見るとお似合いだね」

私は寄り添ったまま周囲を気にせず一年生の校舎の方にゆっくりと歩いていく二人を眺
めて言った。

「あいつに彼氏ねえ」

 麻人が再び微笑んだ。

「そんな歳になったんだな、麻衣も」

「今度、麻衣ちゃんを問い詰めよう。私たちに黙って付き合うなんて水臭いじゃん」

「そうだな」

 麻人も微笑んだまま寄り添った二人を眺めてそう言った。


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