330:名無しNIPPER[saga]
2016/07/31(日) 23:43:16.65 ID:rPhbjypgo
麻人は私に悪いとは言ったけど、やはりそれ以上は何も食べようとはしなかった。そし
てもう私もそれ以上麻人に何も言う気はなくなっていた。というか私自身にさえ食欲のか
けらも残っていなかった。結局、私たちは残りの昼闇の時間を黙ったまま過ごしたのだっ
た。
午後の授業が始っても私は授業に集中できなかった。何か得体の知れない寂しさが包み
込んでいるようだった。麻人が好きだという自分の心に気がついた時、自分の恋は成就し
なかったけど、私たちの関係が壊れることだけはないのだと、なんとなく私は考えていた。
それは家族関係のようなものだったから。
今ではこの場所に残っているのは私と麻人の二人きりだった。麻人は二見さんを失い、
私も麻人を失った。そしてあんなに私たちの側ににべったりとくっついていた麻衣ちゃん
も今では私たちと別行動を取っていた。高校に入学した時に戻ったように麻人と私は二人
きりだった。そしてあの時は二人きりでいること自体にわくわくしていた私だったけど、
今ではただ得体の知れない寂さだけしか感じることができなかった。
これからどうしようか。
あの時、あたしは夕也と麻衣ちゃんの頼みを引き受けた。引き受けざるを得ない状況だ
ったから。二見さんは、麻人を巻き込まないために麻人ともう二度と会わない決心をして
いるのではないかと夕也は言った。だから、麻衣ちゃんも夕也も不在なこの時期には、私
は自分の恋とか関係なく、二見さんを愛した麻人を支えるしかなかったのだ。
でも、実際に麻人を支えようとしていても、私が一緒にいることで彼が少しでも救われ
ているのだろうかという疑問が今の私には強く浮かんでいた。麻人は私のことなんか全く
気にしていないようだった。
いや、気にはしていたのかもしれない。ただそれは、精一杯彼のことを考えて彼に話し
かけていいる私のことを気にしてくれているに過ぎなかった。つまり私がしていることは
全く麻人の役に立っていないどころか、かえって彼の負担になっているのだ。
これからも私はこんな誰にとっても救いのない行動を選び続けるしかないのだろうか。
私は自分の引き受けた役割を後悔し出していたけど、でもそれは自業自得であって決して
麻人のせいにできることではないことはわかっていた。
ようやく午後の授業が終了したとき、私は麻衣ちゃんと約束した以上、生徒会活動を放
り出してでも麻人に寄り添うつもりだったけど、その私の申し出を麻人は断った。
「学園祭も近いんだしおまえ忙しいだろ」
麻人のその言葉は、多分私なんかと一緒にいるより一人で二見さんのことを考えたいと
いう気持ちから出たものだと思う。でも、麻人が形だけでも私のことを気にかけてくれた
ことは、何か私にまだ将来のこととか何も考えずにお互いのことだけを考え合っていて、
それでも充足していた昔の私たちの関係のことを思い浮ばせてくれた。
「ごめんね」
私は言った。「学園祭の準備が今佳境になってるから」
「ああ。俺は大丈夫だから」
「・・・・・・本当に平気?」
私は思わず本音で麻人に聞いた。彼は私が大好きな優しい笑顔をすごく久しぶりに見せ
てくれた。
「おまえに気を遣わせちゃって悪い。何なら朝も一緒に来てくれなくても俺は平気だから」
そういった麻人の寂しい表情が私の胸の中のどこかを柔らかく刺激した。
「そんなこと言うな」
私は思わず麻人を叱るように言った。
「明日も駅にいなよ? 私を待ち呆けさせたら許さないから」
麻人は寂しそうに、でも私に気を遣っているかのように笑ってくれたのだった。
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