320:名無しNIPPER[saga]
2016/07/18(月) 23:44:49.08 ID:HbILN8rbo
麻人のことが気になっているせいで、自分に都合よく彼の行動を解釈しているんだ。私
はそう考えて有頂天になる心を引き締めた。麻人の一番は、恋愛感情はないとしても麻衣
ちゃんだ。麻人と私は共に手を携えて麻衣ちゃんを守ってきた戦友に過ぎない。私は無理
にそう考えようとしたけど、そう思って済ませるには、麻人ののその視線には粘着性があ
りあたしは麻人の視線に晒されていると、まるで電車の中で裸にされているような感覚を
覚えた。それほど、その視線は長く私のあちこちを眺め回していたように感じられたのだった。
その頃の私は混乱していた。もし、もしも万一麻人が私のことを女として欲しているな
ら、私はその想いに応えたかった。彼が麻衣ちゃんの気持ちを傷つけることを承知の上で
私のことを求めているのだとしたら、私も麻衣ちゃんのことを考えずに彼の腕の中に飛び
込んでいきたかった。でも、そういう考え自体が、私たちがこれまで過ごしてきた麻衣ち
ゃんを支えて行くという生き方を裏切るものだった。もちろん全て私の勘違いかもしれな
い。麻人は直接私に好きだと告白したわけではない。
麻人の気持ちを知りたい。
私は麻衣ちゃんや麻人と普通に笑顔で接しながらも、心の中ではそのことばかりを考え
ていた。どうすれば麻人の私に対する気持ちを知ることができるのか。いつのまにか私は、
そのことばかりをいつも心の中で考えるようになってしまった。
麻衣ちゃんが入学してから二月くらい経った頃、両親はそれまで住んでいた家を処分し、
今までよりだいぶ広い家を購入した。つまり、私は引越しをしたのだった。
この引越しによって麻人や麻衣ちゃんのお隣ではなくなってしまったのだけど、引越し
先は一つとなりの駅のそばだったので、私はそのこと自体をそんなに気にすることはなか
った。毎朝一緒に兄妹と登校できることに変わりはなったし、最初は寂しいと言って泣い
ていた麻衣ちゃんも、毎朝隣の駅からおはようと言って同じ電車に乗ってくる私を見て、
いつの間にかそのことに慣れてしまったようだ。
それでも、その引越しは私にとって凄く大きな意味を持っていた。偶然から生じたこと
ではあるけれども、今にして思うとこの引越しがなければ、この後の展開は生じなかった
だろう。
・・・・・・私の引越し先の隣には、夕也の家があったのだ。
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