319:名無しNIPPER[saga]
2016/07/18(月) 23:44:11.40 ID:HbILN8rbo
かといって麻衣ちゃんが私と麻人に過保護に守られて、わがままな女の子に育ってしま
ったというわけではなかった。麻衣ちゃんの気持ちを第一に考えようとする私たちに対し
て、麻衣ちゃんの方もいつだって遠慮気味に振る舞っていた。麻衣ちゃんが、大好きな麻
人の気持ちを優先しようとすることは、この兄妹の関係からその行動は理解できたけど、
それだけではなく、麻衣ちゃんは私の気持ちにも気を遣うような優しい子だった。
つまり過保護な麻人と私の接し方にスポイルされることなく、麻衣ちゃんは素直ないい
子に育ったのだ。
育ったと言うと、まるで麻人と私が子育てしたみたいだけど、私の感覚としてはまさに
そんなところだった。麻衣ちゃんのことを心配していろいろ私と麻人が相談しあっている
ところは、まさに子育てをしている夫婦のようだったのかもしれない。お互いのことより
麻衣ちゃんのことを最優先して考えるところは、まさに子育て中の若い夫婦そのものだっ
た。ただひとつ、私と麻人の間には、当時は本当の夫婦のようなお互いへの恋愛感情はな
かったことだけは、本当の夫婦と違っていたけれども。
そういう風にして過ごしてきた私が、朝の登校時間だけとはいえ、麻衣ちゃん抜きで麻
人と過ごす時間が増えたことにより、彼のことを異性として麻衣ちゃん抜きで意識するよ
うになってしまった。そして、そのことを麻衣ちゃんに話すことができなかった私は、妹
ちゃんに罪悪感を感じたのだ。
やがて麻衣ちゃんは入試をひかえて志望校を決めなければならなくなった。麻人と私は、
麻衣ちゃんの進路の相談に乗った。それは、仕事に多忙な池山兄妹の両親から、麻人と私
に託されていた任務だった。何をおいてもその期待には応えよう。私はそう思った。
私たちのサポートを受け入れた麻衣ちゃんは、私たちの高校より偏差値の高い学校を受
験し、公立の第一志望校に合格した。それなのに、麻衣ちゃんは滑り止めに受験した、私
と麻人と同じ私立高校に入学し、うちの学校に入学すると言いつったのだった。
麻人と私は、一生懸命に麻衣ちゃんを説得した。それは多忙のあまり麻衣ちゃんの受験
をほとんどサポートできなかった麻衣ちゃんの両親の意を受けた行動でもあった。お兄ち
ゃんとお姉ちゃんと同じ高校に行くと頑固に主張する麻衣ちゃんに、第一志望校に入学し
ないと将来後悔するよって、必死で説得する麻人と私は、まさに娘の進路を心配する夫婦
のようだった。でも、麻衣ちゃんは結局意思を曲げなかった。
こうして、私たちはその四月から再び三人で登校するようになったのだった。
再び三人で登校するようになると、私と麻人の仲が怪しいという、校内の噂はすぐに静
まってしまった。それは麻衣ちゃんの精神衛生上はいいことではあったけど、一方で私は
密かにそのことを残念に感じていた。もう、私と麻人の仲をからかう友人はいなくなった。
麻人は相変わらず可愛い女の子二人といつも一緒にいるリア充認定されており、そのせ
いか、誰かに告られるということはなかったので、麻衣ちゃんが麻人に対して嫉妬して不
安定になることもなかった。同時に、麻人と私の噂も完全に消え去ってしまっていたから、
そのことで麻衣ちゃんが悩むこともなかったのだ。つまり、再び私たち三人は、ぬるま湯
に浸かるように、気持ちよく将来の見えない関係に戻ってしまったのだった。そして、麻
衣ちゃんはそういう関係に戻れたことに満足だったようで、相変わらず麻人と私に甘えな
がら日々を過ごしていた。
このぬるま湯のような居心地の言い関係を、麻人がその頃どう考えていたのかはわから
ない。麻衣ちゃんが満足していたので、妹に甘い麻人もこの関係に満足していたのかもし
れない。
でも、その頃から私は奇妙な視線に気づき、悩むようになっていた。以前と同じように
三人で登校する日々。電車の中で賑やかに話をす私たち。これまではそういう時に麻人の
視線は、可愛らしく喋っている麻衣ちゃんを慈しむように彼女に向けられていた。ところ
が、その頃、麻人の視線が時おり麻衣ちゃんを離れ、私の方にじっと向けられることがあ
った。それは、一年生の時に麻人と二人きりで登校していた頃でさえ感じたことのないよ
うな熱っぽい視線だった。
468Res/896.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20