317:名無しNIPPER[saga]
2016/07/18(月) 23:41:54.63 ID:HbILN8rbo
「そんなことないって」
クラスの友だちや生徒会の役員の人たちから「有希って池山君と付き合ってるでし
ょ?」と聞かれるたびに、私は赤くなってそれを否定した。
でもどういうわけか、私が麻人との仲を否定すればするほど、私を問い詰めてきた友人
たちはにやにやするだけで、私の話を真面目に取り合ってはくれなかった。そして、正直
に言うと私もそれ以上、麻人との関係を友人たちにしつこく否定したりはしなかったのだ。
その頃は麻人も同じような問いかけをされ、同じようにそれを否定していたそうだけど、
それを信じてもらえなかったのは私と同じだった。麻人と私は登校こそ二人きりでしてい
たものの、別に校内でベタベタと一緒に過ごしていたわけではない。当時は私が生徒会の
役員になった頃で、放課後は帰宅部だった麻人と一緒に過ごしたり一緒に帰宅したりする
ことはなかった。なので、周囲にカップル認定されたといっても、それは疑惑のレベルに
留まっていた。
「池山と遠山は怪しい」
つまりはその程度のカップル認定だったのだ。でも、私は校内のその微妙なうわさが嫌
いではなかった。むしろ、麻人と今まで以上の関係に踏み込んでいるようで、何かどきど
きするような奇妙な興奮を感じていたのだった。
まるで麻酔を打たれてうとうととしているように居心地はいいけど、生産性のない行き
止まりのようだった麻人と麻衣ちゃんと私の三人の関係を惰性で続けるよりは、麻人と私
の二人だけの時間は、この先何かめくるめくような展開が先に待っているようだった。そ
の頃の私は、こんな曖昧な関係でも十分に満足だったのだ。
休日には、麻人なしで麻衣ちゃんとショッピングに出かけることがよくあった。もちろ
ん妹ちゃんは毎回兄を誘っていたようだったけど、女の服の買物は勘弁とかでいつも麻人
から断られていたようだった。
麻衣ちゃんは麻人なしで私と出かけることに対して、あまり文句を言わなかったことを
最初私は不思議に思ったけれども、すぐにその疑問は氷解した。
一通り麻人に対して駄々をこねた麻衣ちゃんは、実際に私と二人で出かける段になると、
麻人が一緒にいないことをあまり気にもせず、というか麻人がいないことをいいことに私
に対して、自分の兄が高校でどういう風に過ごしているのか、兄にはどういう友だちがい
てどういう付き合い方をしているのか、兄に言い寄ってくる女の子はいなのかどうか、そ
ういうことをしきりに私から聞き出そうとした。
私にもブラコンの麻衣ちゃんの気持ちはよくわかった。自分の知らない兄が、自分の知
らない場所で自分が知らない人間関係を築いていくことに対して不安を感じているのだろ
う。
私は、買物の途中で一休みしていいるファミレスやスタバとかの店内で麻衣ちゃんと向
き合って座りながら、私の知っている限りの麻人の情報を伝えた。麻人の話になると麻衣
ちゃんの食いつきは物凄いと言っていいくらいによく、まだ買物の途中のはずが話し込む
と平気で二時間くらいは経過してしまった。それで、麻衣ちゃんは途中で時間に気づいて
慌てて話を終らせ、服とかの買物を中断して夕食の買物のためにスーパーに走るというこ
とがよくあった。
そういう小休止の時間に、私が麻衣ちゃんに伝えた麻人の学校での日常の話は、何も嘘
はなかった。特に麻人の女性関係については、正直に麻衣ちゃんに伝えたと言うことは今
でも自信を持って言える。
その頃の麻人には、彼狙いで近づいてくる女の子はいなかったから、私は「麻人に告っ
た女の子はいないし、麻人が気になっている女の子もいないみたいだよ」と麻衣ちゃんに
は話した。それは正真正銘真実の話で、少しの嘘もその中には混じっていたかった。
ただ、嘘は言ってはいなかったけれど、私が知っていることを全て麻衣ちゃんに伝えた
わけではなかった。
なぜ、麻人にアプローチする女の子がいないのか。うちの学年の生徒なら多分誰でも簡
単に答えられたであろうその事実を、あたしは麻衣ちゃんには話さなかった。仮に麻衣ち
ゃんがうちの学年の子に、「何でお兄ちゃんはもてないの?」と聞いたとしたら、それに
対する答えはすぐに返ってきただろう。
「・・・・・・だって、池山君には遠山さんがいるじゃん」
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