女神
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183:名無しNIPPER[saga]
2016/04/07(木) 23:06:36.79 ID:HnyAwiIMo

 少なくとも、来年からまた優と一緒の学校に通えるだけの布石は打った。彼女の成績な
ら僕の進学予定の高校には合格するだろうし、仮にもっと彼女の偏差値が上がったとして
も彼女は僕と同じ高校に進みたいと言ってくれたのだ。

 僕は、来年彼女と一緒に過ごせるように、打てる手は全て打ったつもりだった。あとは、
当面この一年間をどう乗り切るかだった。校内で一緒に過ごせないことは明らかだったけ
ど、放課後にどこかで待ち合わせするとか週末にも会うようにするとか、そういうことを
僕は勇気を振り絞って彼女に提案するつもりだった。まさか、来年まで会わないというわ
けにはいかない。そんなことには僕が耐えられないし、多分彼女のメンタルも持たないだ
ろう。彼女は僕に毎日自分の思いを吐き出すことで、、自分のメンタル面の正常さを保っ
ていたのだから。自分のことをケアする僕がいなくなって、ひたすら同級生の相談を受け
るだけの毎日なんて、彼女には我慢できるはずはないのだから。

 ふと時計を見ると、もう午後の最後の授業が終る時間だった。僕は立ち上がり二年生の
教室の方に再び歩いていった。階段を上って二年生の教室が並ぶ二階のフロアに足を踏み
入れた時、副会長が僕を呼び止めた。

「先輩」
 彼女は偶然出会った僕に対して、少し照れたように微笑んだ。「もう会えないかと思っ
てました」

「やあ。久しぶりだね」

 僕は生徒会活動から引退していたから彼女と話すのは久しぶりだった。

「あの。先輩、今日合格発表だったんですよね?」

 僕に振られたのに、彼女は僕の合否を心配してくれていたのだろうか。僕は少しだけ暖
かい気持ちになりながら答えた。

「おかげさまで、第一志望校に合格したよ。心配してくれてありがとう」

「おめでとうございます。本当によかったです」

 考えてみれば優とは違ってこの子は僕のことだけ気にしてくれているんだな。一瞬そん
な感想が浮かんだけれども、もちろん今自分が焦がれるほど求めている女の子が誰なのか
については、今更勘違いする余地はなかった。

「じゃあ、僕はちょっと用事があるので」

 僕は言った。

「はい。またです」

 彼女は名残惜しそうに言ってくれた。彼女に別れを告げた僕は、ドアが開きっぱなし
の優の教室を覗き込んだ。

 ・・・・・・ざっと見た限り優の姿は見当たらないようだった。おかしい。

 今日が僕の合格発表の日だと言うことは彼女も知っているはずだった。約束していたわ
けではないけど、受験生が今日の結果を担任に報告しに学校に来ることは、校内の人間な
らみんな知っていたはずだった。その日の放課後に優が教室にいないなんて。図書館で待
っていることはありえない。僕自身がさっきまで図書館にいたのだから。きっと、彼女は
ちょっと席を外しているだけなのかもしれない。僕は優の席の机を見た。その席は完全に
片付けられていて、机の上にカバンがおいてあることもないどころか、机の中にも物一つ
入っていないようだった。

 どうしたのだろう。少し不安になった僕は背後から話しかけられた。

「先輩」

 副会長だった。まだ、ここにいたのか。僕が返事するより早く彼女が言葉を続けた。

「もしかして、優ちゃんを探してるんですか」

「あ、ああ」

 僕は口ごもった。副会長はなぜ自分の告白に僕が応えなかったのかを知っていたのだか
ら、その時の僕の心境は複雑だった。

 それは遠慮がちな小さな声だった。ここで誤魔化してもしょうがない。僕は素直に答え
た。

「うん」

「あの、ひょっとして先輩。ご存知ないんですか」

 おどおどとした副会長の声。一体何が言いたいのだろう。言いたいことがあるなら早
く言えよ。僕はその時、理不尽にも八つ当たり気味な感想を彼女に対して抱いた。

「・・・・・・何が?」

「優ちゃん、一昨日転校したんですよ。確か、東北の方に転校するって言ってました」


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