女神
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175:名無しNIPPER[saga]
2016/03/27(日) 22:41:05.41 ID:q8J8eS9oo

「僕は、君のために」

「あたしのために? 先輩もあたしの話ばかり聞かされて飽きちゃったんでしょ」

「だから、違うって。僕は君のことが好きだし、君のことをもっとよく知りたい。でも、
君だって自分の彼氏が人気のないただの男じゃ嫌だろ?」

「え?」

 優は僕を責めるのをやめ、少しだけ顔を赤くした。

 ・・・・・・僕は、これまではっきりと彼女に告白してはいなかったし、まだその勇気もなか
った。その時は、僕を責める彼女に言い訳をしようとしていただけだった。でも、その時、
僕は期せずして初めての愛の告白を彼女にしてしまったようだった。

「・・・・・・本当?」

 優が、彼女らしくなく俯いて小さく聞いた。

「先輩、あたしのこと本当に好きなの?」

「うん」

 僕はそう言って、優の手を握り、彼女を自分のほうに引寄せた。少しだけ抵抗していた
彼女は、最後には僕の腕の中に入ってきた。

 翌日から、僕と彼女は恋人同士になった。それは、女に慣れていない僕の勘違いではな
かったと思う。僕のことをはっきりと好きと言葉にしてくれたたわけではなかったけど、
彼女の態度は、昨日までとは明らかに異なっていた。彼女は、僕が狼狽するほど僕に密着
し、僕の時間の全てを自分と一緒に過ごさせたいというような態度を、あからさまに示し
ていたのだった。

 当然、僕にだってそのことが嬉しくないわけはなかった。当時の僕は普通に恋する男に
過ぎなかったから、気まぐれに彼女が示してくれる好意のかけらにだって、僕は夢中にな
って飛びついていたのだった。

 彼女が言葉で明白に僕への好意を示してくれることは一度もなかったけれども、図書館
での逢瀬の終わりに、いきなり手を繋いでくるとか、生徒会の活動で遅くなって彼女を待
たせてしまった僕に不機嫌になるとか、そういう態度によって、間接的に僕への関心を示
してくれることはよくあった。当時の僕にはそれで十分だった。

 それでも、彼女との付き合いが深まると、僕にはその態度に不満を感じることが多くな
ってきた。それは、生徒会活動より自分を優先するように要求する彼女の束縛とか、いつ
までたってもはっきりと僕に愛を囁いてくれないとか、そういう不満ではなかった。僕に
とっては、今では彼女と一緒に過ごすことが、自分の生活の中で一番大切な時間になって
いたから、その束縛は僕を喜ばせこそすれ僕を困惑させることはなかった。

 一方で、優が僕自身に対する気持ちを曖昧にしていたことは、僕にとってストレスにな
っていたことは確かだった。でも、もともと釣り合わない関係なのだ。僕は、その点に対
しては幻想を抱いていなかったから、彼女が僕に対して気まぐれに見せてくれる好意のか
けらだけでも十分だったけど、それでもいつまでもそれに満足しているという気分にはな
れないものだ。

 そして、仲が深まってきてからの僕たちの肉体的な接触は、手を握ることくらいだった。
僕は、彼女のことをまるで女神のように崇めていたから、自分から彼女に手を出すなんて
考えもしなかった。最初の告白のときに彼女の手を引いて彼女を抱きしめたけど、それが
最初で最後の僕のアクションだったし、そのことについても、僕には特段の不満はなかっ
たのだ。何より僕たちは中学生なのだし。

 不満というのは、もっと別の次元のことだった。僕は彼女が好きで彼女のことが知りた
かったから、別に義務感からではなく本心から彼女の話を聞くのが好きだった。だから、
僕たちが共に過ごしていた時間のほぼ全ては、彼女の話を僕が聞いてあげることに費やさ
れていた。最初はそれで満足だった。僕は、彼女が僕にだけは本心を隠さずに話してくれ
ることを嬉しく思っていたし、彼女が何を考えているのか、友だちに対する想いや両親に
対する想いなどを知ることができることにわくわくしていた。それは、恋人同士が最初に
辿る、正しい道筋だったと思う。


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