171:名無しNIPPER[saga]
2016/03/27(日) 22:37:39.35 ID:q8J8eS9oo
これが、僕と二見さんの最初の出会いだった。
好奇心から彼女に接近した僕だけれど、話していると彼女に対する好奇心とか、ライバ
ル心、それにいい相談役になってあげようという当時の僕の傲慢な考えは、いつのまにか
失われてしまった。そして、その後に残っていたものは、彼女の感情が掴みきれていない
という憔悴と、そこから生じたもっと深く彼女を理解したいという衝動だけだった。
最初、僕は彼女の心を掴んだと思っていた。このまま自分語りを続けさせれば、他の多
くの生徒たちと一緒で、二見さんも僕の数多いクライアントの一人となるだろうと。
でも、僕に心を許していたように見えた彼女は、突然、僕の目をその澄んだ瞳で見つめ、
今まで自分の境遇と感情の確執を語っていたのが嘘のように冷静な表情で、言い放ったの
だった。しかも、ご丁寧に微笑みかけることまでしながら。
「それで、先輩は何であたしの話を親身に聞いてる振りをしてくれてるんですか? あ
たしたち、同級生でもないし初対面なのに」
この時、僕の優位性は突然揺らいだ。それは、二見さんの心情を理解でき、これから
その悩みを軽減してあげようと考えていた僕にとっては、青天の霹靂のような言葉だった。
彼女は、これまで自分の行動を語っていた時のような、素直な表情を一変させ、まるで小
悪魔のように可愛らしく、ずる賢く、そしてからかうような表情で、僕を見つめたのだっ
た。
「何言ってるの? 僕は、誰にでも親切に話を聞く君に興味があるだけで」
僕は、彼女の不意打ちにしどろもどろになりながら、かろうじて反論した。自分でもそ
の言葉の説得力の無さは、痛いほど理解していた。
「ふーん。先輩こそ、噂どおり誰にでも親身になるんですね」
二見さんは、優しい微笑を浮かべながら、でも、油断できない冷静な口調で言った。
「先輩は、どうして人の悩みを聞いてあげてるんですか?」
彼女は無邪気な口調で言った。
「お節介だとか言われませんか?」
「まあ、結局、自分のためにやってるようなものだし」
その時、僕は彼女のあけすけな口調に思わずつられ、自分でも意外なことに思わず本音
を語っていたのだった。
「人ってさ。結局、誰でも自分のことを認めてほしいものなんだよね」
「承認欲求ですね」
二見さんが言った。
「でも、先輩にだって承認欲求はあるんでしょ? 人の話を聞いてばかりだと、先輩の承
認欲求は充たされませんよね?」
どこまで小賢しいのだろう、この女は。この間まで小学生だった、たかが中学女子の分
際で、何を悟ったようなことを言っているのだろう。僕は自分のことを棚に上げてそう思
った。でも、この時にはもう僕の言葉は止まらなくなってしまっていた。
「もちろん、僕にだって人に認められたいという欲求はあるよ」
僕は、いつのまにか、これまで誰にも話したことのないことを、ペラペラと喋っていた。
「逆説的だけど、人の話を聞いてあげて、その人の承認欲求を充たしてあげる。そのこと
で、僕は人に評価されてるんだ」
・・・・・・僕は後輩に、いったい何を話しているのだろう。
「何か変なの」
そう言った二見さんの笑顔は、僕をこれまで以上に幻惑させた。
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