末妹「赤いバラの花が一輪ほしいわ、お父さん」(最終章と後日譚)
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78: ◆54DIlPdu2E[saga]
2016/01/30(土) 01:36:31.20 ID:bj+dknBb0
(師匠「……現在、この世に残っている過去の人物の肖像画は単なる芸術作品、あるいは単なる歴史的資料だ」)

(師匠「当時関わった人間が何を思っていたか窺い知れるのは、その中でもごく僅か」)

(師匠「ほとんどはわからんと言ってよいくらい」)

(師匠「第一にな、完成させて依頼主に渡した絵は、もう画家の所有物ではなくなっているのだぞ」)

(師匠「しかも絵をなかったことにしたい云々だって、お前の思い込みではないか」)

(野獣「それはそうですが」)

(師匠「後の人間に任せればよいと儂は思う」)

(野獣「……後の人間」)

(野獣「肖像画に描かれた人物を直接知らない、ずっと後に生まれた人々は、あの絵を見て何を思うのでしょう」)

(師匠「いるではないか、『後の世に生まれた人間』ならば」)

(野獣「あ」)

(師匠「あの子達から率直な感想が聞けたならば、お前も」)

(師匠「……両親の影から今度こそ完全に解放される、あの絵もお前から解放され、ただの芸術作品になれる」)

(師匠「儂はそう思うのだがな、どうだ?」)

(野獣「……やはり師匠は私の事を私自身以上におわかりですね」)

(野獣「画家を目指す次兄は、何を思うのか」)

(野獣「私と菫花をあらゆる呪縛からひとつずつ、縫い止める糸を解くように自由にしてくれた末妹は、何を思うのか」)

(野獣「…………師匠にお願いしてよろしいでしょうか?」)

……




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