「『須賀京太郎』とは、あなたのそうぞう上の存在に過ぎないのではないでしょうか」
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659:名無しNIPPER[saga]
2016/11/02(水) 23:35:58.01 ID:mI+Zg/sJo


輓近、妙なざわつきを感じている。

それは夜に僅かに強くなり、朝にはもう忘れているようなものである。

夜に強くなる理由は分かっている。


月。


予てから己が友であった、空浮かぶ半身。

その存在が、昼間には感じるまでもない予兆もしくは余波を感じさせるほどの過敏さを齎している。

しかし、その齎される感覚が、如何なるものであるかを知る術がない。


如何にせん。

そう思いつつ、虚空に向かい呼びかける。


「ハギヨシ」

「はい」


先ほどまで一人であった部屋に、背の高い影が現れる。


ハギヨシ。

龍門渕家に仕える執事。

そのハギヨシに、一言、問おうとして、


「……そろそろ寝る」

「かしこまりました」


結局、言えずに終わる。

ハギヨシが居なくなるのを横目に見て、再び空の月を見る。

ざわつきの一因に、ハギヨシがあった。



ハギヨシは、衣の知る限り唯一の『完璧』の体現者である。

言われるを熟し、言われざるを熟し、欠けたるは無く十分、時に十二分に満たす。

人間的な、内面の話は分からないが、少なくとも衣の知る限り、寸分の隙間なくハギヨシは執事であった。

衣が龍門渕家に来た時には、既にハギヨシは透華の執事だったが、それから6年の間、ハギヨシが失態というものを犯した所を見たことがない。

当時齢13の少年である。

それが、失態を犯さないだけではなく、人とはこれ程のものであるかと衣に思わせる活躍をしていたのだ。

それでいて、疎まれず、恨まれず、かといって大いに好む者は無く、被加問わず嫉妬や羨望とは無縁である。

色々な面での『強者』は数多く見てきたが、これほどに個として完成し、また完結している者は、少なくとも衣は見たことがなかった。




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