448: ◆DTYk0ojAZ4Op
2016/03/28(月) 01:41:58.41 ID:IMgzJVX60
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その日の鉱山都市には大雨が降りしきり、
日中だというのに空は飴色で、人々は影によって陰に追いやられ、
みな自宅で息を殺していた。
鉱山は兎角雨に弱く、鉱夫たちも早朝から坑道に詰めている。
そんな日の彼女の仕事はといえば、
いずれ運び込まれる負傷者の手当くらいのもので、
鉱山のほど近くへと自ら建てた小さな研究室兼自宅で待機していた。
過酷な労働環境に身を置く鉱夫たちはみな屈強だが、
それでも月に何人もが命を落とす。
鉱山都市は平和そのものだ。
平和な都市ですら、これだけの死者が出る事実に、彼女はまたも心を痛める。
人は物陰で理由なく死ぬ。
その死と労働災害による死にどれだけの違いがあるのだろうか。
鉱山都市は兵を持たない。
金銭の授受のみが、住民に課された絶対的なルール。
即ち、国家の民営化である。
人々は治安や司法を金で買う。
金さえあれば安全が他者により保障され、権力を手に入れられる。
鉱山都市の街角には食料や衣類品、生活用品のみならず、法律、名声や権力まで並ぶのだ。
住民はそれらを自由競争によって手に入れられる。
持とうと思えば私兵も持てる。
人の生き死にすら金銭のやり取りで済む。
この歪な個人主義は自然に産まれたものだ。
その結果、住民たちは金のため、自ら火中に身を投げる。
つまりは能動的な死だ。
理由なく死ぬ人々とは前提から異なってくる。
―――そして彼女がそこに、ひとつの光明を見出した事も、
自然といえるだろう。
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