魔女「ふふ。妻の鑑だろう?」
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343: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/11/23(月) 01:11:28.19 ID:9DwdlqBj0



中央王国の北部、魔法の王国との境界は山岳地帯になっていて、
裂け谷と呼ばれる谷間に中央王国にとって重要な拠点となる砦がある。
砦といっても城や城壁のような建造物があるわけではないが、
北部には断崖から蛇行して降りる細い道が一本のみ、魔法の王国領まで繋がっていて、
地形として防衛に非常に適している、天然の要塞だ。
この道は互い違いに石造りの段で築かれており、折り返すごとに石碑が立てられている。
魔法の王国領を一望できる上、南東に荘厳に聳える火竜山脈が後部からの偵察と奇襲を防ぐこの地を守る限り、
中央王国北部の守りは鉄壁であると言われた。


賢者「…なんとかならないものかしら。
   ここを奪わない限り攻め込めないけど、
   ここを奪う事は不可能に近いだなんて」


夜、一人王都を抜けだした賢者は、
一夜のうちに裂け谷砦に辿り着いた。
一夜にして80キロを踏破する、徒歩としてそれは驚くべき移動速度だ。
戦士と別れた事は正解だった。
単独であるからこそ、王国軍が裂け谷砦の防備を固める前にここに辿り着けた。
非戦時、砦にはおよそ200名の人員が割かれているが、
その程度の防備なら、この魔法使いにとって突破する事は容易い事だろう。


賢者「崖下の森に身を隠せれば、
   魔法の都まですぐね。
   …馬を調達できればいいけど、
   崖を下る時目立ちすぎるかしら」


陽の昇る前に裂け谷砦を抜ける必要がある。
見張り番の息の根を止め、賢者は崖へと向かう。

そしてその時、静穏だった賢者の心が、少しだけ傾いだ。


賢者「……………ちぇ。
   依存、してる」


魔研を最後に会っていない、不出来な部下を思い出す。
彼は無事だろうか。
魔法の都に着けば、消息はわかるだろうか。

不出来な部下だが彼の存在は、賢者にとって大きかった。
これがもし彼の結末だとしても、それを恐れ自らの指揮下に置いていたとしても、
全ては彼が望んだ事だ。
忠告はしたとはいえ、それが彼の選んだ道なら、彼を守り抜く事は自らに課せられた役目だった。

では賢者の失態とは、さしずめ力不足という事か。

国王への報告を終えたら暇を貰おう、などと嘯く。
そうしたら、今度こそ胸を張り故国を守れる仕事にでも就こう。
戦争が避けられぬなら、
その戦いの果てが平和であるべきだ。

世が平和になれば、命を奪いすぎたこの身も、
平穏に暮らす事も許されるかもしれない。





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